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924 名前: ◆5yGS6snSLSFg[saga] 投稿日:2011/06/28(火) 17 24 09.67 ID 3HglxMaxo 夏休み、二十日目 名前:兄貴[] 投稿日:2011/08/10(水) xx xx xx.xx ID xxxxxxxxx さて、夏休みも残すところ1/3だ 次≫933 933 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/06/28(火) 17 30 59.25 ID MYRwn1Wdo 家族で食事に両親へコンドームをプレゼント 938 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/06/28(火) 17 33 12.31 ID MYRwn1Wdo ようやく両親へ親孝行できるな 大介には迷惑をかけすぎたからな 939 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/06/28(火) 17 34 05.48 ID HzlNg7VAO ≫933 なんつぅ爆弾を… 942 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/06/28(火) 17 36 50.31 ID qHzPUd5Fo 桐乃必死ワロタwwwwwwwwww 945 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/06/28(火) 17 54 43.87 ID CjSueZ8DO パスはきりりんの名前だったのか? とにかく桐乃かわいいよ桐乃 951 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/06/28(火) 18 36 29.16 ID p0QEl0kIO 桐乃の好感度高えw 952 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/06/28(火) 18 47 11.32 ID yRr27yJ30 一度は-6まで下がってたはずなのに… 953 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/06/28(火) 18 59 25.41 ID 4FjVqR9Vo とうとう高感度トップだった加奈子を追い抜いた・・・・だと・・・・・!? 959 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/06/28(火) 19 38 58.34 ID mz8xBw/IO 桐乃爆釣りでワロタwwwwwwwwwwww もうだめだこいつwwwwwwwwww 980 名前: ◆5yGS6snSLSFg[saga] 投稿日:2011/06/29(水) 16 41 01.61 ID VI0bNXsQo 「気まずいなんてレベルじゃねえぞ」 親父たちが現役でないならまだしも、もし現役であってみろ。 “色々と聞こえてるくるからやるなら静かにお願いします”というメッセージと取られかねんぞ。 そもそもからして、食事中に渡す意義がわからねえ。 「まあ、いい。今回は割とすんなり誤魔化し方を思いついたからな」 ふっ、まあ見てろって。俺の危機回避能力をな。 例によって、勢いで誤魔化す方針なのは変わらないけどな。 早々にリカバリー方法を思いついた俺は、早速朝のコンビニへと走った。 「親父、お袋。渡しておきたいものがあるんだ」 家族そろっての朝飯時に、俺はそう切り出した。 「む……なんだ?」 「プレゼント? 京介にしては珍しいじゃない。でも、今日って何かの記念日とかだっけ?」 「記念日か。確かにそう言っても差し支えない」 正直ふざけ半分でないとやってられないが、そこをぐっと堪え、深刻な顔で語りだす。 「俺、ようやく気付いたんだ。だから、何も言わずこれを受け取ってくれ」 そう言って、近藤さんを差し出す俺。 「「「ぼふぉあ!」」」 味噌汁、お茶、米粒をそれぞれ吹きだす親父にお袋、そして桐乃。 「京介、貴様! 朝からなんの冗談だ!」 「冗談じゃねえ! こんな真似冗談でできるか!」 俺の、まっとう?な反論に。思わず「む……」と押し黙る親父。 桐乃は口をぽかんと開けて思考停止状態に陥っている。 そらそうだろう。兄貴が、何をとち狂ったのか、朝飯時、家族の前でいきなり近藤さんを取り出すんだもんな。 考えるのを放棄したくなるのもわかるよ。 「俺、やっと気づいたんだ」 「き、きき、気づいたって何を?」 なぜか異様に動揺するお袋。 「俺の妹は桐乃一人だってことに!」 「「……はあ?」」 「何を言っとるんだ、京介」 一転して、全員が同じようなリアクションを取る。 呆れたような、不可解なものを見たような……もっと端的に言うと、「暑さで頭でもやられたのか?」みたいな表情。 「……次の休み、クーラー買いに行くとするか。流石に、京介の部屋だけクーラーなしは可哀想だったな」 「ええ。そうしましょうか」 「うん、そうしてあげて」 「待ってくれ、俺は正気だ」 981 名前: ◆5yGS6snSLSFg[saga] 投稿日:2011/06/29(水) 16 41 30.05 ID VI0bNXsQo 俺の言い訳タイムはまだ始まったばかりなんだぜ? 頭のネジが吹っ飛んだ判定を下すのは早計というもの。 最後までしっかり聞いてから判断してくれ。 「俺の妹は桐乃一人なんだよ」 「はあ? そんなの当たり前じゃん。お父さんに隠し子がいるわけないし」 「そうじゃねえ」 “俺の妹は桐乃一人” これの意味はそうじゃねえんだ。 「俺の妹は桐乃以外に務まらない。俺は桐乃以外の妹は欲しくないって意味なんだよ!」 「!」 俺の言葉を聞いた瞬間、桐乃はまるで雷に打たれたかのように体をびくりとさせた。 しかし、一方の親父たちは急速に冷静さを取り戻し始めた。 「だから、親父たちにこれを渡すんだ! 親父たちが現役かどうかは知らんし、そんなことは関係ない!」 俺は、桐乃以外の妹なんて欲しくない。その決意の証としてこれを渡すんだ。 「俺は! 桐乃を! 妹として! 愛しているんだああああああ!!」 言った……言ってやったぞ! 一部の隙もない完璧な言い訳だ。 「あんたたち、いつの間にかすんごく仲良くなってたのね」 「京介。桐乃のことは頼んだぞ」 親父たちも、見ているこっちが微笑ましいくらいのほくほく顔だし、今回の危機回避っぷりは今まででも最高位に位置するんじゃないだろうか。 そして、当の桐乃本人はというと、 「あ、あんた……それ、本気なの?」 「当たり前だ。……最初に言ったろ? 冗談でこんなことできるか――って」 「うん……うん!」 夏休み、二十日目。朝パート 安価成功 名前:兄貴[] 投稿日:2011/08/10(水) xx xx xx.xx ID xxxxxxxxx 俺の危機回避っぷりも板についてきた感があるな まあ、俺にかかればこんなもんさ! と、今まではここで調子に乗って「何でも来い!」と言って痛い目を見てきたわけだが今日は違う 昔の人は言いました。勝って兜の緒を締めよ ふははは! 今の俺に不可能はない! 何でも来いやああ! ≫990 989 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/06/29(水) 16 47 44.06 ID 1TacEOtSo 桐乃の部屋に聞こえるように そうだ桐乃は妹なんだ、妹なんだ、でも俺はあああああと 身悶える声を出す 990 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/06/29(水) 16 47 45.61 ID xRBYE6TxP 妹に真正面からハグしてみる 991 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/06/29(水) 16 47 47.30 ID IhB7yA2O0 パイタッチ 992 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/06/29(水) 16 47 49.25 ID qNa2jNCDO フェイトさんに夜道襲いかかる 996 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/06/29(水) 16 52 07.85 ID khhe+6hDo ≫989-992がデッドヒートすぎるだろJK
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http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1316537661/783-801 暗闇はやっぱり苦手…いつも、わたしの忘れた記憶を呼び起こさせる……… 『さようなら』とメールした後、それでもわたしは更に、闇を求めて目を閉じた。 「お母さん、わたしね………」 『あやせ、あなたは良い子でしょう、何で言う事が聞けないの? わたしはあなたをそんな子に育てた覚えはありません』 「………でも、わたし」 お母さんの悲しそうな顔、いけない 「ごめんなさい、ごめんなさい。お母さん、ごめんなさい」 お母さんを悲しませたらいけない、いけない 『あやせは本当に良い子ね、お母さんとても嬉しいわ』 おもちゃもいらない、お菓子もいらない、おねだりなんてしないもん 「バイエル、弾ける様になったの」 「先生がね、新垣さんは頑張り屋さんだって褒めてくれたの」 「お父さんがプレゼントしてくれたご本、もう全部読んだよ」 だから 今度、お父さんとお母さん……わたしを動物園に連れて行って…… 「お父さん、お仕事頑張ってください。ちゃんと、わたし、お留守番出来るから」 わがまま言わない……… 絶対、わたし……泣かない…… 『新垣さん、一緒に帰らない?』 「え?」 髪を染めてる女の子、不良だ!仲良くしちゃいけない 『あやせちゃんに一目置いてんだよね、あたしって。あん(た)あやせちゃんに 勝手に親近感抱いてるって言うかさ、ぶっちゃけ迷惑だった?』 …………… 『ほら、あやせ、こうすると美人度上がるっしょ?あやせは黒髪が綺麗だし、スタイル も良いから、絶対に似合うと思ったんだよね、ほんとバッチリ。それにさ、メイクだけじゃなくて、 服もピッタリじゃん。まぁその服あたしのだけどね、にゃはは』 「桐乃さん、有り難う」 『ちょっとぉ、どんだけ他人行儀、あんた?うちら、もう親友でしょ!』 「う、うん……あ、ありがとう、桐乃」 『って何で(驚)?せっかくメイクしたのにさ………。あ~じゃぁさ、ほら、ほら、 やり方教えてあげるから自分でやってみぃ、ね?』 本当に、本当に、ありがとう桐乃 「お母さん、わたし、モデルのお仕事したいの!」 お母さんの悲しそうな顔…… それでも……わたしは 「学業と両立させます。ちゃんと責任感を持って一生懸命に頑張るから。 だからお父さん、お母さん認めてください!」 『やったじゃん!あやせ。まぁこれからはライバルだから、敵同士…だかんね! な~んてね………冗談、冗談、心配いらないって、全部、あたしに任せとけって!』 ライバル……なんて、敵同士なんて絶対にならない、なる筈ないよ、桐乃 でも 『俺は高坂京介------そっちは?』 『あやせ、結婚してくれ』 『------冗談だと分かっててもさ、ほんとごめんな』 「-----いってらっしゃい、お兄さん」 さようなら、お兄さん 『あやせ、、、、これが本当のあたしなの』 「お兄さん、わたし、桐乃よりも可愛くないですか? 桐乃よりもわたし魅力ない、、、ですか? わたしなんかじゃ桐乃よりも…すき…になれないですか?」 『俺が見た中で、あやせのウエディングドレスが一番似合ってたし、一番綺麗だ』 『あんた、、、あたしの気持ち知ってる癖に、、何でこんな酷い事すんの? うちら、ずっと一番の友達だったのに!!絶交した時、京介が仲直りさせてくれた時、 約束したでしょ、それなのに、、、裏切ってさ、あたしの気持ち裏切って!!!』 『あやせちゃん、しっかり、きょうちゃんを捕まえててあげなさい。 わたしね、あやせちゃんなら、きょうちゃんと一緒に幸せになれると思ってるんだ。 きっとね、わたしって、きょうちゃんが黒猫さんとお付き合いした時に、あの時に 応援してしまったから、多分………あの時点で、もう』 『自分の心に言い訳しすぎて、その言い訳に結局、自分自身が説得されちゃった。 誰かを好きって気持ちにも賞味期限があるんだ、きっと。 だから、わたしはずっと勇気がなかった、情けないよね、め! だよ。 だから、あやせちゃんは、こんなお姉ちゃんになっちゃ、ダメだよぉ? だから、あやせちゃんは今の自分の気持ちを、ちゃんと大切にしてあげなさい』 『よし、じゃぁ付き合うか。何か照れくさいな……ってこれじゃダメだ! 俺の馬鹿!、馬鹿!、馬鹿!大切な事を忘れるなんて本当に、情けねぇ。 え?あ~こっちの事だよ、気にするなって。 別に、おまえにSMプレイを強要してるわけじゃねぇって、おい! 彼氏に向かって初めて言う台詞がそれかよ! あ?……い…き』 『なり、、お、おまえ…滅茶苦茶、大胆だな……全然嫌じゃねぇけど。 えっと………………何だっけ?あ、そうだ! 俺ら、付き合うって決めた以上は、俺はずっとおまえの彼氏でいるつもりだからな! でも俺は、自分で言うのもなんだが、ヘタレのシスコンで、致命的に鈍いときてる。 だ、だから自虐プレイじゃないんだって(汗) こんな俺だけどよ、あやせの為にもっと、ちゃんとした立派な彼氏になるから! あやせを必ず幸せにするから、だからさ……何だ…とにかく、これからよろしくな』 『あやせ好き、あやせ愛してる、俺はあやせのものだ』 『ああ、ずっとずっと好きだ、ずっと前から好きだ』 『あやせ、これからはいつでも好きな時に来てくれて良いからさ。 いや違うな、俺がいつでも来て欲しいから渡すよ』 *** *** *** 「はぁはぁ」 俺は息をきらせて、走っていた。 ついさっき、俺が感傷的に、色々な事を追憶していた時に、加奈子から電話があったの だが……… 『京介、ひっさしぶり!じゃーん』 「よぉ、本当に久しぶりだな、元気してたか?」 『京介、誰か男紹介してくれよぉー。加奈子にはいつも超お世話になってんだろお? だから、少なくとも、おまえよりもイケメン限定で!』 「おいおい、いきなり何を言い出してるんだ、おまえ…訳分からん奴だな」 『ばっくれんなよ。ネタはちゃんと上がってるんだっつーの。 しかも、加奈子をダシに使いやがって、おまえらどんだけお盛んなんだョ(笑)』 加奈子は、俺とあやせが付き合った事を最初から知っている。 そして、一番最初に祝福してくれたのも加奈子だった。 こいつは案外(と言うと悪いが)良い奴で、今回の件で分かる通り、あやせとも仲が良いし、 桐乃ともちゃんと今まで通りに付き合ってるらしい。 加奈子が俺の存在をどういう形で捉えてるのかは分からないが…あやせがどれほど 加奈子のお陰で救われたのかは容易に想像出来る。 「へ?」 『おいおい、もうとぼけんなって。しっかし、あやせがねー意外過ぎるつーか、 イヤ、意外なのは京介の方か。イヤ、セクハラマネージャーだからむしろ当然だナ』 どうやら、加奈子の話を聞く限りでは、あやせは親に、今夜は加奈子の家に泊まると 言って嘘をつき、その口裏を加奈子に合わせて欲しいと頼んだ(命令した)らしい。 考えてみれば、あやせはまだ高校生なのだ。門限ってものがある。愚かにも、俺は 桐乃と喧嘩して、妹を家に残し、自分が頭を冷やしに外に出てきた感覚で考えていた。 「……………………まぁーな」 『ったく、頼んだ本人の携帯には繋がらないしよぉー。とにかくちゃんと誤魔化した かんな。京介が伝えとけよ。いちゃつきやがって、幸せを加奈子にもお裾分けしろっ』 「本当にいつも有り難うな。おまえにゃ、マジで感謝してっからよ」 どう考えても、そんな素敵な夜になるとは思えないのだが……加奈子に余計な心配を かけたくはないから、こう言うしかなかった。 何であやせの奴は、俺に『さようなら』とメールした癖に、門限の時間になっても、 帰宅しなかったんだ? あやせの携帯にかけたが、当然繋がらない。 『このままわたしを置き去りにして……………今、わたしを見捨てたら、 本当に、本当に、、わたしは何をするか分かりませんよ、お兄さん』 さっき、部屋であやせが言っていた言葉を思い出す。 俺が勝手に信じていただけで、あやせは本当に、俺に見捨てられたと思っていたのか? とにかく俺は急いで部屋に戻ると、ドアを開けたのだが………… 多少は、期待していた俺の希望は見事に裏切られ、部屋の照明は消えたままで、 辺りはしんと静まりかえっていた。 当然、あやせも、あやせの靴や大きなバックや歯ブラシなんかも……ここにあやせが 実存した事を本質的に証明するものは、何ひとつ残っていなかった。 俺がプレゼントしたチョーカーを除いては……。 あいつは本当に………親にも、加奈子にも嘘をついて何処かに行ってしまった。 俺は無意識に、そのチョーカーをポケットに突っ込むと、部屋を飛び出した。 あやせが行きそうな所を考えながら走り出したのだが全くと言って良いほど 検討がつかなかった。 あやせの知り合いに確認しようにも、そんな人物は誰一人、思い浮かばない。 俺はあやせの事が、性格云々じゃなくて………本当に何も分かってなかった。 分からないなんてレベルじゃない、あいつの事を何も知らなかったんだ。 加奈子に何度も連絡しようかどうか迷ったが、多分それは余計な心配をかけるだけで 何の解決にもならないと直感して辞めた。 あやせが言った通り、刹那的にでも抱いてやれば良かったんだ。 あいつに、ちゃんと捕まえててやるなんて偉そうな事を言って、結局心どころか あいつの身体さえ……掴み損ねて、あやせは消えた。 さっき誘惑してきた時のあやせが思い浮かぶ。 あの目も眩みそうな美貌で、理性さえ麻痺させる媚態に満ちたあやせの顔と あいつと喧嘩した時、他の男の話をして俺を嫉妬で狂わせようとした時の声が 頭の中で共鳴して、どんどん悪い事を、嫌な事を、最悪の事を考えそうになる。 俺はなるべく別の事を考えようとして、結局さっきの追憶の続きをはじめた。 麻奈実が学校を休んだ時、桐乃が突然留学してしまった時、黒猫が俺に 別れを告げて転校してしまった時……… 麻奈実の時は、桐乃に相談したんだった。 桐乃が留学した時は、黒猫が色々気を遣ってくれた。 黒猫が失踪した時は、麻奈実に相談しようとして結局、桐乃に助けられた。 俺はあいつらの為にいつも頑張ってきたつもりだったけど、実はあいつらに いつも助けられていたんだ。 俺は、誰にかけるのかも分からず、ポケットの中の携帯を掴もうとした………… 多分掴んでいれば、また泣き言を言った筈だ、いつもの様に………間違いなく。 でも携帯の代わりに俺が掴んだのは偶然にも、チョーカーだった。 無意識に、あやせが持って行ってしまった手錠の代わりに、右の手首にチョーカーを巻く。 俺は頭の中で何度も反芻する 麻奈実が居なくなった時、麻奈実を信じて自分で行動してたら? 桐乃が留学した時に、桐乃を信じて自分で行動してたら? 黒猫が失踪した時に、黒猫を信じて自分で行動してたら? チョーカーを眺めながら、あやせが握っていてくれた右手を思いっきり握りしめると 微かに温もりを感じる。 あいつは言った 『わたしは………自分から……居なくなったり……しない』 と……。 あやせが消えた今こそ、あいつを信じるんだ。もうあの時とは違う。 あやせの為に、追憶した過去の為にも……今度こそ、絶対に失うわけにはいかない。 それは奇跡や宿命なんて大げさなものではない………とても静かで、優しくて、 暖かい予感みたいなもの、俺があやせを好きになった理由そのものなのだ。 もう二度と戻らない(戻れない)"もしも"が、俺の中で本当に過去のものになった事を その瞬間に実感した。 その事実は俺をとても切なく、悲しい気持ちにさせたが、立ち止まってるつもりは もう無かった。 だから…………俺は静かに歩き出した。 *** *** *** どれくらい時間が経ったのだろう……わたしは目を閉じたまま眠っていた。 『おまえは何もしない、そして俺は必ず戻ってくるから…さ』 『さようなら』と自分でメールした癖に、京介さんの言葉が頭の中を何度も過ぎる そして、その思い出が強烈に、わたしの後ろ髪を引く。 悲しいと吠える癖に、構って貰うと尻尾を振ってしまう、まるで寂しがり屋の犬みたいに。 それが漠然と思い浮かんだ、自分のイメージ。京介さんに手錠をされてエッチな事を された時、チョーカーをプレゼントされた時から、、、あの時も全然嫌じゃなかった。 そして、わたしは………。 わたしがもっと素直で良い子なら、お兄さんは頭を撫でてくれたのかな? 「………ワ…………ン…」とかすれた小さな声を出して苦笑した。 "猫"なら、彼女はきまぐれだったのかな?と何の意味も無く、、ふと考える。 それにやっぱり猫の方が可愛い気がして、ちょっぴり嫉妬………したけど……… 今日一日……彼女と電話で話していた時の京介さんの顔が一番楽しそうだった。 そして、それはわたしが好きな京介さんの顔だった。 わたしは 幼い頃に、飼っていた青い小鳥の事を思い出す。 あの時、桐乃の手を強く掴んだ事を思い出す。 あの時、京介さんの腕を指が食い込むほど握りしめた事を思い出す。 好きという感情が抑えられない、失う事を恐れて自分から壊してしまいそうになる…… 小鳥を籠から出して逃がした様に、 桐乃の趣味を認めて自分の友情を押しつけるのを辞めたように、 だから、今度は、京介さんを自由にしてあげよう………… もう、こんなわたしの事なんて、どんなに嫌らわれて、拒否されて、振られても、 きっとわたしは京介さんに対して、感謝以外の感情は、何も残らないのだから。 だから、なるべく笑って、さよならしよう…わたしの大切な人をこれ以上傷つけない為に。 京介さんとの思い出があれば、沢山泣いても、きっといつかは笑顔になれるから……… でも……突然、眩しい光に照らされる。唖然としていた、わたしを大きな手が引き寄せる。 まるで、光そのものが強い意思を持っていると錯覚をするほど、優しくて、確かな温もりが わたしの身体を、優しく包み込んだ。 「……………やっと捕まえた」とクローゼットのドアの先から声が聞こえた。 『どうして………?』と言おうとしたが、強引に……今までに無いほど…強引に…… 抱き寄せられて、口を塞がれた。 ついさっき決心した事を言おうとしたけど、彼の本気の力で押さえつけられた わたしは何も出来なかった。 お互いの歯が何度かぶつかるほど激しく口唇を押しつけられる、わたしの舌が 何度も貪られる……唾液も、吐息も…わたしの全部が京介さんに吸い取られてしまう。 身体が熱くなって、意識が麻痺してきたわたしは、吸い取られた言葉の事も忘れて、 危うく、自分から京介さんを何度も求めようとしてしまった……。 どれくらいの時間が経ったのか、やっと押さえつけていた手を緩めてくれて、 唇を強引にわたしに押しつけるのも辞めてくれたのだけど(でも唇同士はふれたままで) 腰に手を回されて、半ば強引に京介さんの膝の上に座らされた。 だから京介さんの声は音と言うよりも、触れたままの、唇から振動で伝わる。 「俺はおまえの言いたいことが分かってるつもりだ。でもそれだけはダメだ。 その代わり、おまえがして欲しい事なら、"儀式"でも何でもしてやる! もうカッコつけるのは辞めた……からさ」 あんなに我が侭を言って、いつも困らせて…だからこんな風になる事を………… 期待なんてしてなかった、でも京介さんはわたしを見つけてくれた。 そして、ここまで言ってくれてるのに……こんなに求めてくれてるのに………… "でも"わたしは……。 「最初は、同情で付き合った癖に!本当のわたしの事はずっと、見て無かった癖にっ! さっきだって、わたしを見捨てた癖に!だからもう遅い、、全部、遅いんだから!!!」 まだ足りない、やっぱり足りない………いくら求めても、求めれば、求めるほど カラカラに渇いて、余計に欲しくなって…………際限がどうしてもない…………だから そう思った時、そう言おうとした時、わたしの渇いた心を、わたしの頬を雫が濡らした。 京介さんは何も言わず、音も立てず静かに泣いていた。 ただ、わたしに触れたままの唇が微かに震えだして、その震えは段々大きくなって ついには肩まで揺らしながら、号泣した。 男の人がこんな風に、人前で泣くなんて、信じられなかった。 沈黙した嗚咽は、わたしから完全に言葉を奪って、ただ彼を何とかし(てあげ)たい と思う動機と暖かい涙を、わたしに与えた。 同時に、わたしは京介さんのしょんぼりした背中が好きだった記憶が蘇る。 ヘタレでも、情けなくても、シスコンでも……鈍くても、エッチで浮気性でも それでも構わない…だから、わたしは別に、欲くて、求めてただけじゃない……… 不器用で歪な、"まごころ"だけど………あなたに、ずっと、ずっとあげたかった。 *** *** *** 俺は何で泣いてるんだろう?原因も分からず、ただ羞恥心もプライドも無く、 俺はあやせの前で、嗚咽していた。 桐乃の前で何度か泣いた事が微かに頭を過ぎったけれど、もうそれが理由で今のこの涙を 止める事は、どうしても出来なかった。 あやせは何も言わなかった。ずっと黙って、ただ俺の背中をさすってくれていた。 それでも泣きやまない俺に対して、彼女は…………… 「ちゅっ……ぺろ……レロ…むちゅ…ベロ……」 最初はキスされているのかと思ったが……そうじゃなかった。 あやせは、唇を押しつけると舌を出して、俺の頬を、頬に流れた涙の雫を舐めだした。 必死に、何度も、何度も、何度も…………滑稽な筈なのに、俺の胸は熱くなり…… ますます涙が止まらなくなったが、それでもあやせは、俺の頬が全部あやせの唾液に 変わるまで、決して辞めなかった。 俺はやっと「ありがとう」と言い、あやせの髪と頬を横から撫でた。 「京介さん、それ好き…だ、だから、もっと………してっ………く…ださい」 さっきは、桐乃にするみたいに頭を撫でる事をあれほど拒絶したのだが、今回は 何故か、ごく自然にあやせに触れる事が出来たし、彼女の嬉しそうな笑顔を見て…… 俺の変な拘りが、このあやせの笑顔を曇らせてたのかも知れないと反省した。 「俺はあやせとずっと一緒に居たい。もう理屈も理由もないんだ。だから……さ……」 「ねぇ、京介さん、何でわたしがクローゼットの中にいるって分かったんですか?」 「本当に何の理屈も理由もない。ただ居て欲しいと………信じただけだ。 まぁ………鈍い俺だから何度か回り道したし、おまえを随分待たせちゃったけどな」 「わたしを信じてたのに、さっきは何で泣いたの?結局、振られると思って悲しくなった んでしょ?本当に信頼してたら……」 「麻奈実がさ、さっき話してた赤城と付き合う事になりそうなんだ。 そして俺の妹とはちゃんと良い兄貴になるって話してきた。 黒猫とも、ちゃんとある約束している。 俺には本当にあやせしか居なくなった。 だから泣いたのかは分からないけどさ………こんな話って、やっぱ俺って情けないよな」 「そうですね、凄くみっともなくて、情けないから、ほっとけなくなっちゃいました…… ………わたし」 「実際、不安だったのかもな。おまえの言う様に、最初は、あやせが危なっかしくて 心配で付き合う事にした。そして、俺の勝手なイメージでおまえの事を見てた。 さっき、おまえを捜し回って、走り回ったけど、でも俺はあやせの事を何も 知らなかったって痛感させられた。 だからおまえに、見た目だけとか、身体だけでも良いって言われた時に……… 俺は何も言えなくて、ちゃんと反論も出来なくて、あやせを余計に傷つけた。 だからその事については謝るよ。変に誤魔化したり、カッコつけたりして、すまなかった」 「でもさっきは見捨てたわけじゃない、おまえを信じてたつもりだったんだ」 これだけの事を言う為に、本当に、随分遠回りしたが、やっと言えて良かった。 「そんなに、わたしを信じてるなら、わたしのコトがちゃんと分かってるって言うなら、 わたしが今して欲しいコ・ト・…当ててください。当ったら仲直りしましょう、ね?」 ウインクして、魅惑的な顔になったあやせが、挑発する様に俺にクイズを出した。 俺はさっきしたみたいに強引にキスする、もう自分が風邪だった事なんてすっかり 忘れていた。理屈も、理由も、クイズも関係なく……純粋にしたいから、した。 「それもして欲しいコトですけど、一番じゃないから………ハズレですね。 やっぱり……わたし達って相性悪いのかなぁ。残念です…ねぇ、京介さん?」」 こいつがずっと"京介さん"としか呼ばない事に違和感を感じた。 "儀式"なのかとも考えたが、俺に髪を撫でられている、あやせにはもうそんな気配は 微塵も感じられなかった。本当にただ、ただ美しい俺の彼女だった。 「んじゃ、また尻ぶった叩くか……アレはあやせのお気に入りだからな」 やっと余裕が出てきた俺は、何とか冗談を言ったつもりだったのだが…… 「それもして欲しいコトですけど、一番じゃないから………ハズレ」 冗談とも本気とも取れぬ態度に対して、いささか俺の理性は、失われ始めて…… やっぱりあやせの言う様に、俺らが変態なのは、間違いないのかも知れない。 変な性癖に目覚めないか心配した将来の不安は、既にリアルな懸念に変わっていた。 「もう本当に強情ですね、京介さんの、、が、わたしにずぅっと当たってるのにっ! それとも処女厨なのは…………冗談だった事が、実は的を射てましたか? はぁ~でも、良いんです……それでもわたしの気持ちは変わりませんから。 あなたがどんな変態でも、応える自信……わたしにはちゃんとありますからっ!」 こいつが何を言ってるのか皆目検討はつかないが、何か相当ヤバイ匂いがするのは 確実に分かった。 「あ、あのさ、、おまえがもう"儀式"を求めてないのは、何となく分かるんだけど それって結局どういう事だったのか、教えてくれないか? それが分からないと、ちゃんとクイズに答えられないと言うか……」 『…桐…………3つ……の……処女………………』と耳打ちされた。 「ははは……あ、あやせさん、そんなの、おかしいですよ!って言うかさ。 キ○ガイみたいなフリをするのは、もう良いからね!だ、だ、だから本当の事を言おうぜ。 俺ら、ちゃんとした恋人だろ?全く……冗談ばっかり、どっちが変態だよ、もう(戦慄)」 あやせは無言で、さっき隠れていたクローゼットから、最近よく持ち歩いている 大きなバックを取り出すと、おもむろに俺に中身を見せる。 ………メイド服、ブラウンのウッグ、眼鏡があった(様な気がするだけの事にしておく) 「もし、わたしが無理やり儀式実行したら、京介さんは、わたしの事が嫌いになって 逃げ出して、わたしの事を捨てましたか?正直に言ってくださいね? わたし……絶対に、もうどんな些細な嘘も、誤魔化しも、許すつもりないから……」 「一回全力で逃げ出して、それでもおまえがやるって言うなら付き合ってやったと思う。 あやせは困ったちゃんなのは分かってるけど、同情以外の感情があるのは今なら分かる。 ぶっちゃけおまえが、NTRの話しなくなったのは儀式とか言い出してからだもんな。 おまえと別れるくらいなら、おまえが他の男の話をするくらいなら、もう超変態で あやせと一緒に何処までも堕ちるやるさ」 半分は本気で、半分賭けで………俺はそう言った。 さっきみたいに、いくら諭してもダメなんだ、あやせを全部受け入れて、もしこいつが 傷つくなら、俺も一緒に痛みを感じてやる。 俺の彼女が堕天使で、地獄の案内人………だとしても、もう離れるつもりはない。 もう、絶対にあやせを一人にはしないって決めたんだ。 でも同時に、『とても静かで、優しくて、暖かい予感みたいなもの』を今なら 信じられる気がした。 「ふふ、京介さん……良いコ・ト・しましょう?もうしちゃいましょう……ねっ?」 そう言った時のあやせの笑顔は純真で、清純で、純粋でとても気高く感じられて、 本当に天使を見たら、こんな気分になるのかもなと俺は、不思議な感慨に耽った。 どうやら、何とか………賭けには勝てたらしい。 何でこいつは、あんな悪魔の発想する癖に……こんなに可愛く笑えるんだよ、全く。 「本当に、儀式はもう良いのか?」 「儀式ならもう終わりました。魔法ならちゃんと、京介さんにかけられちゃった…から」 こっちだって、ずっと魔法も、あやせ菌にもかかりっぱなしだったんだ。 でもあやせには伝わってなかった。だからこれからは、今からはもう照れは捨てて 全部あやせの望み通りにしてやろう。 誰かに聞かれて見られたら恥ずかしくて、死にたくなる様な事でも平気でやってやるさ。 「そっか…………分かった。で、おまえのお気に入りの手錠はどうする?」 あ~ついに、こいつとするんだなと考えると緊張で声は上ずるし、さっきは別れるか どうかの瀬戸際だったのに、今はあやせが目を潤ませて、頬を高揚させてる姿を見ると、 更に俺に胸や臀部を押しつけてる状況を鑑みると、自然の摂理で当然痛いほど硬くなる。 「もう!お兄さ…(ん)…あっ、京介さんは…本当に、何も分かってないんですねっ!」 そういう事か…全く、、、何でそんなに俺に魅惑の魔法を重ねがけしようとするんだ? 「可良いな、あやせは…良いんだぜ?おまえが癖で言ってしまう"お兄さん"のままでさ。 おまえしか見てないんだから………今更、何ズレた心配してるんだよ、ったく」 「……ご、ごめんなさい……で、でも、でも……………」 「手錠はプレイで使うなら良いけど(もう立派な変態だ)、今は必要ないで良いんだな? 心はちゃんと繋がってる。今は…身体は身体同士で繋がりたい、、、で合ってるか?」 恥ずかしそうに、ぎこちなく、でもしっかりとあやせはコクリと肯いた。 こんな最高に可愛い彼女が相手なんだから、今だけは、俺も全力で"男"にならなきゃな。 俺はキスしながら、あやせをお姫様だっこしてベットに運ぶ。 何でだろう、あやせの裸なら本当に何度も、何度も見た筈だが……… DVD事件の時は、自分で全裸になってたし(長時間クローゼットでそのままだった) あやせの部屋ではいきなり下半身を脱がせたのに、今は服を着たままのあやせを 目の前にしているだけで、今までと比べものにならないくらい興奮して、緊張して 完全硬直しちまった、やっぱ情けねぇ………。 自称"男"改め、単なる童貞小僧に成り下がった俺は、キョトンとした表情で見ていた あやせに 「ふふ、良いですよ…ほら…………ボク………お姉さんとエッチなお勉強しましょう? ほらぁ……こっちにおいで」 と誘われた。
https://w.atwiki.jp/psparchives/pages/326.html
とりあえず3周プレイ。怪談(?)+クローズドサークルのサウンドノベル。 スクリーンショットから既にC級の匂いを漂わせていたけどやっぱりC級。 「かまいたちの夜」「弟切草」のように、物語にどっぷり浸かるような面白さはちょっと…。 伏線がたっぷりとあるので、それらが一つずつ紐解かれていく面白さがウリ。 PSPで出来ることもあるし、アドベンチャーが好きなら買っていいかも。 以下システム周り。 一度通った選択肢は色の変化アリ。 ムービースキップは出来るが、既読スキップ、文章スキップは無し。 セーブはスロット一つにつき一つです。 ロード後は、「起床」「夕食後」といった場面の最初から読み直すことになります。 攻略サイトによると、エンディングは28個あるようです。 おまけが何故かいっぱいある。アーカイブス仕様でスクショ付。 -- (ななし) 2009-08-30 10 07 19 ドラゴンナイツグロリアスのセーブデータがあると、学校であった怖い話をプレイした人にとっては、にやりとできるおまけがある。 ただ、おまけはおまけなので、過度な期待はしないように、と付け加えておく。 -- (名無しさん) 2009-09-05 10 23 41 ドラゴンナイツグロリアスのセーブデータがあると、みられるおまけは、2週目以降ではないと見られないので注意。 -- (名無しさん) 2009-09-08 22 25 32 クリアー後のおまけゲームで百物語があるものの 数行で終わるようなものもいくつかあったり、茶化した子供だましな話が多め。 あくまでオマケで期待しないようにするよう。 -- (名無しさん) 2021-04-04 05 25 32
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/526.html
http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308729425/632-663 残暑も遠退く中秋の候、俺はとある平屋の一軒家を訪ねていた。 ピンポーン、とチャイムを押して待つこと数秒。 「はいはいは~~~~いっ。京介くんですかっ?京介くんだよねっ?」 「おねぇちゃん、わたしも、わたしもおにぃちゃんとお話する」 「ほら、やっぱり京介くんだ!今行くから待っててね!逃げちゃダメだからね! ほらほらっ、珠希も行くよ、愛しのおにぃちゃんに会えるよ~」 「あっ、待って、おねぇちゃん」 ガチャ、ツー、ツー。 口角泡の飛沫を錯覚し、思わず顔に触れていた。 喧噪の坩堝とは、五更家のインターホンのことを言うのではなかろうか。 ドタドタと床を踏みならす音が、家の外まで聞こえて来て、がらりと引き戸が開く。 「いらっしゃーい、京介くぅんっ! もーっ、来るの遅いよぉ~~~。 京介くんが来るの、ずっと待ってたんだからぁ~~~~」 おさげを犬の尻尾のように揺らし、 つっかけに爪先を通すことさえもどかしそうにして、日向がこちらに駆け寄ってくる。 彼我の距離が5メートルに縮まったところで、盛大にジャンプ。 イヤな予感、というよりは経験則が、俺の手足を動かした。 「あははっ、やっぱりちゃんと受け止めてくれるねっ!」 「お前な……怪我したらどうしよう、とか考えないのか?」 下手すりゃ、俺の代わりに大地と抱き合ってたところだぞ。 日向はぐりぐりと顔を俺の胸に押しつけつつ、 「ぜーんぜんっ!京介くんのこと信じてるから! それにィーこうしないと京介くん、あたしのこと抱き締めてくれないじゃ~ん?」 いい歳した男が他所様の女子小学生と抱き合ってたら、色々と問題があるんだよ。 「ヨソサマなんてひっどぉ~~~~~いっ! 京介くんはルリ姉の未来の夫でー、あたしはルリ姉の妹でー、 てことは、あたしと京介くんは血の繋がらない兄妹ってことでしょ~?」 はいはい、分かったからいい加減に俺から離れろ。 通りすがりのおばさんが物凄い形相で俺たちのこと見てたぞ。 「え~やだぁ~」 と甘えた声を出し、なおも離れまいとする日向を無理矢理引き剥がそうとしたところで、 「おにぃちゃんっ」 微かな衝撃が下半身を襲う。 視線を下げれば、黒のつむじが見て取れた。 「珠希か。元気にしてたか」 「たまきは、おにぃちゃんにすごく会いたかったです!」 ぎゅうう、と太股を抱き締めてくる。 一度こうした珠希は、滅多なことでは離れようとしない。 傍から見るとますます誤解を招く図柄になっているらしく、 通りすがりの女子高生が、チラチラとこちらを盗み見ながら、携帯を弄っていた。 通報されてないことを祈るしかねえ。 「日向、珠希」 涼やかな声が聞こえてきたのは、 俺がいよいよ身動きが取れなくなり、助けを乞おうとしていた折だった。 「再会の喜びには、家の中で浸りなさいな。 いらっしゃい、京介。妹たちが迷惑をかけて悪いわね」 「いいさ、もう慣れっこだ」 瑠璃が歩み寄ってくると、まるで磁力を失ったかのように下の妹二人が離れる。 流石の威厳だな。同じ妹を持つ身として尊敬するよ。 「これも躾の賜よ」 ふふん、と胸を反らせる瑠璃を見て、日向と珠希が噴き出した。 「何がおかしいのかしら?」 「あたしと珠希は、ルリ姉が嫉妬しないように気を遣ってあげてるだけだしィー。 ねーねー知ってる、京介くん? ルリ姉はねぇ~~~、あたしや珠希に京介くんを取られるんじゃないかって、本気で心配してるんだぁ~~~」 「ばっ、馬鹿も休み休み言いなさい」 「だってホントのことじゃん? この前なんかさぁ、京介くんが帰った後に、『京介が迷惑だから見境無く抱きついてはダメよ』とか、 『京介はあなたたちの遊び相手である前に、わたしの彼氏なのよ』とか、いちいち説教してくるんだもん。 他の女の子が相手なら分かるけどさぁ、妹にまで嫉妬するとか、ルリ姉ってば大人気なさすぎィ――あいたッ」 ぺしこーん、といい音が鳴った。 「そこまでにしておくことね。 さもなければ"薄氷の衝撃"の上位魔法、"死の鉄槌"を使わざるを得ないわ」 一応解説しておくと、前者は平手、後者は拳骨の厨二病的解釈である。 「助けて京介く~ん、ルリ姉が虐める~~」 叩かれた頭を押さえつつ、俺の背後に隠れる日向。 こらこら俺を盾にするな。瑠璃も勘弁してやれ。 意外にも日向に助け船を出したのは、それまでジーッと瑠璃を観察していた珠希だった。 「お顔が真っ赤ですよ、姉さま?」 「なっ」 「そうだよルリ姉、ただの冗談だったのに、必死すぎ~」 さすがに末っ子に手を上げるのには、母性が呵責したのだろう。 歯軋りする瑠璃、俺を盾に煽る日向、無垢な笑顔で長女の顔色を質す珠希、という膠着状態が続くこと十秒。 俺は訪問者として、至極まっとうな意見を口にした。 「……いい加減、家の中に入れてくれないか?」 瑠璃と付き合いだしてから、早二ヶ月。 『運命の記述(ディスティニー・レコード)』に指定された儀式を一通り済ませた俺と瑠璃は、 予言書の背表紙の外側にある、自由気儘な恋人生活を送っていた。 夏休みが終わった後は、週末に五更家を訪れることが恒例化し、今日がその日というわけだ。 初見の頃から馴れ馴れしかった日向も、初めは大人しく控え目だった珠希も、 今や、扱いに困るほど俺に懐いてくれている。 ちゃん付けが呼び捨てに変わったのは最近のことで、二人にリクエストされたことが切欠だった。 『鎮まれ、俺の右腕よ、鎮まれ――!』 『ククク、真夜よ。やはりお前一人では、異形の血を制御できないようだな』 『それはどうかしら、ルシファー。 真祖の名において命ずる。彼の者に宵闇の加護を授けたまえ!』 『夜魔の女王!? 真夜――、貴様、闇の眷属に魂を売り渡したというのか!?』 昼過ぎの長閑な空気に、厨二病患者たちの応酬が木霊する。 マスケラ二期のDVDを観ましょう、と言い出したのはもちろん瑠璃で、 その目的は珠希の教育(という名の洗脳)らしいのだが、 当の珠希は画面には目もくれず、メルルのお絵描きに勤しんでいる。 そして俺はと言えば、 「こんな問題解くための公式、まだ習ってないんだけど」 「よく図形を見てみろ。 とりあえず全体の面積を出してから、斜線部以外の面積を引けばいいんだよ。 長方形とか三角とか丸とかの面積の出し方は習っただろ?」 「へぇ~~~~っ、そーいうことかー。頭いいねっ、京介くん!」 絶賛、日向の家庭教師役を務め中である。 日向が問題を解いている間、何気なく瑠璃のほうを見ると、阿吽の呼吸で目が合った。 「…………」 瑠璃が何を考えているのか、何を望んでいるのかは、手に取るように分かった。 が、まだ少し早いんじゃないか、と視線を逸らした矢先、 畳の上に伸ばした足の裏に、柔く冷ややかな感触が走る。 俺のふくらはぎ、膝裏、内股を伝い、股間を圧迫するそれは、瑠璃の爪先以外には有り得ない。 「………っふ」 いや、「………っふ」じゃねえし。 いくら卓袱台の下の出来事だからって、すぐ近くに日向や珠希がいるんだぞ。 バレたら何て説明するつもりだ、と非難の視線を向ける余裕は、瑠璃の足捌きで刈り取られた。 「お前な………」 負けじと俺も爪先を伸ばし、瑠璃のワンピースのスカート部分に差し入れる。 足指に、滑らかな布地の感触。 だいたいの見当を付けて関節を曲げると、 「……っ……ぁ……」 瑠璃は期待どおりの反応を示した。 きゅっと下唇を噛み締め、声は押さえているものの、表情の変化は隠せない。 堪える仕草に嗜虐心をそそられ、もう一度足指の関節を曲げようとしたその時、 「できました!」 「できたっ!」 日向と珠希が快哉を叫んだ。 「おにぃちゃん、これ、なんだか分かりますか?」 「ん……あぁ、アルファ・オメガか。 ダークうぃっちモードのセカンド・フォルムだよな。よく描けてる」 「せいかいですっ!」 「京介くん、京介くんっ、答え合わせして! これ、近年稀に見るあたしの自信作だからっ!」 「いや、裏に解答載ってるだろ……おっ、正解だ。やればできるじゃねーか」 妹にしてやるノリで、お絵描きと宿題を達成した二人の頭を撫でてやる。 「……………」 あのー、瑠璃さん? 欲求不満な視線で俺を射貫くの、やめてもらえませんかね? マスケラ見ろよマスケラ、ちょうど今作画ぬるぬるの戦闘シーンだぜ。 「もう見飽きてしまったわ。 目を瞑っていても、真夜とルシファーの一挙手一投足を想像できるくらい」 言いつつ、瑠璃は足先に力を込める。 このエロ猫め、相当焦れてやがるな。 俺は仕置きの意を込めて、卓袱台の下に手を差し込み、悪さをする足の裏をくすぐってやった。 「ひゃんっ!」 「どっ、どうしたんですか、姉さま?」 「ちょっとぉー、いきなり大きな声出さないでよね、ルリ姉」 妹二人からの非難を浴びて、恨めしげに睨み付けてくる瑠璃。 俺に足裏をくすぐられた、と言えば、なぜそんな場所に足を置いていたのか、と訊かれるのは必定で、 まさか隠れてえっちぃことしてました、と告白できるはずもなく、瑠璃が返答に窮していると、 「ただいまー」 玄関より福音来たる。 「おかえりなさぁい」と日向。 「おかぁさん、おにぃちゃんが来てますよ」と珠希。 襖が開いて現れたのは、瑠璃が大人になったらこんな風になるのだろうか、と思わせられる、 妙齢の和風美人こと、五更家三姉妹の母君である。 パートの仕事をされていて、今日は午前のみのシフトだったようだ。 「こんちわ、お邪魔してます」 「あら、いらっしゃい京介くん。 お昼ご飯はもう食べた?瑠璃に作ってもらったのかしら?」 「いえ、家で食ってきました」 「そう。今日は、これからどこかに出かけるの?」 俺と瑠璃は顔を見合わせ、首を横に振る。 するとおばさんはニッコリ笑って、 「じゃあ、日向と珠希は邪魔ね。 二人とも、お母さんと一緒に買い物に行きましょう?」 「えー、やだぁ~~。せっかく京介くんが来てるのに~~」 「おにぃちゃんも、いっしょに買い物に行きます?」 「お姉ちゃんとお兄ちゃんはお留守番。 お菓子買ってきてあげるから、お母さんの荷物持ち手伝って?」 珠希は俺と母親の顔を何度も見比べていたが、 甘味の誘惑には抗えなかったようで、クレヨンを置いて立ち上がった。 意外だったのは日向の反応で、 「あたしィー、前から欲しかったシャーペンがあるんだけどぉー、 それ買ってくれるなら、荷物持ちしてあげてもいいよ? どーせ珠希は重いもの持てないし、あたしがいないと困るでしょっ?」 「……仕方ないわね、一つだけよ」 「やったっ」 交渉は成立した模様。 お菓子や文房具で釣られるとは、やっぱガキだなコイツら。 ……べっ、別に拗ねてるわけじゃないんだからね! 「京介くん、晩ご飯食べてくでしょ?何か食べたいものとかある?」 「日向ちゃんや珠希ちゃんの好きな物にしてあげてください」 「もう、遠慮しなくていいのに」 「ハイハーイ、あたしオムライスが食べたいな~~~っ」 「たまきはカレーライスがたべたい、です」 「どっちもなんて無理よ。二人で相談して一つに決めなさい。 それじゃあ、瑠璃、京介くん、お留守番頼むわね?」 「ええ」 「了解っす」 まず最初におばさんが玄関を出て、 オムライスがいい、カレーライスがいい、と舌鋒鋭く言い合いつつ、日向と珠希が後に続いた。 家は俄に静かになった――かと言えばそうでもなく、居間のTV画面の中では依然として、 マスケラの登場人物がスワヒリ語もかくやの難解極まる必殺技名を叫んでいる。 だが雑音の有無は大した問題ではなく、焦点はむしろ、 この家に俺と瑠璃以外の人間が存在しているか否か、にあった。 「瑠璃」 「京介」 俺たちはどちらからともなく唇を合わせた。 優しく触れあうような上品なキスは程なくして、激しく貪りあうような獣の接吻へ。 「京介っ………」 喘ぎながらも俺の名を呼ぶ姿がいじらしい。 瑠璃の体を壁に押しつけ、覆い被さるように抱き竦める。 ワンピースのスカート部分を捲り上げ、閉じられた瑠璃の股に、右足を差し入れる。 瑠璃の下腹部は、既に熱を持っていた。 薄い布越しに秘核を撫でると、瑠璃の体がぴくんと跳ねた。 俺は邪魔な下着を脱がしにかかった。その時だった。 「だ……だめっ……」 トン、と胸を突かれ、後じさる。 唇を繋ぐ銀の糸が断たれたのと同時に、俺は我に返った。 「……何がダメなんだよ?」 瑠璃は息を整えながら、責めるような声で言った。 「はぁっ……はぁ……こんなところで……来客があったら……どうするつもりなの……?」 「見せつけてやりゃあいい。取り込み中だと分かったら帰るだろ」 「ば、莫迦……本気で言っているなら、正気を疑うわよ」 それなら、と俺は訊いた。 「どこでならOKなんだ?」 瑠璃は顔を背けて「着いてきて」と言い、早足で歩き出した。 白いワンピースが、幻惑するように翻る。 行き先は瑠璃の部屋と相場が決まっていた。 俺はさながら獲物を追い詰める肉食動物のように、瑠璃の後を追いかけたのだが……しかし。 「おい、開けてくれよ」 「不可能よ。あなたが真名を取り戻すまで、真理の扉が開かれることはないわ」 ぴしゃりと閉め切られた襖の向こうから、瑠璃の低い声が聞こえてくる。 「真名?俺の名前は京介だろうが」 「いいえ、あなたはルシファーに裏切られたショックで、一時的に記憶を失っているだけ」 先ほどまでのエロ猫モードからは一転、 果たして何の気紛れか、瑠璃は黒猫モードに入っているらしかった。 だが、まあいい。天然の焦らしプレイには慣れている。少しくらいは付き合ってやるさ。 「近くに、あなたが記憶を取り戻すのに必要な魔導具が落ちているはずよ」 足下に視線を転じると、いつかコスプレ撮影会をした時に着た衣装と、文庫本くらいの厚さの小冊子が置かれていた。 「魔導具は見つかったかしら」 「……ああ、見つかった」 「よろしい。では、まず闇の渦と交信なさい。 変身の仕方くらいは覚えているでしょう?」 俺は『変身』を『着替え』に脳内変換し、着衣を交換していく。 泣けることに、玄関先で元気にはしゃいでいた俺のリヴァイアサンは、 今や、真夏のアスファルトに投げ出されたミミズのように萎縮していた。 「……変身したぞ」 「上出来よ。次に、"月夕の教典(ムーンライト・ダイアログ)"の113ページを開きなさい」 なんちゃらの教典とやらは、この荒い装丁の小冊子のことを指すのだろうか。 数ヶ月前にも"運命の記述(ディスティニー・レコード)"に振り回された記憶があるが、 よもやあの時の焼き直しをするんじゃあるまいな。 恐る恐る指定された113ページを開く。それは一言で表すなら――。 「マスケラのト書きか、これ?」 「な、何をわけの分からないことを言っているのかしら。 世迷い言を喋る暇があるなら、早くそこから166ページまでを暗記なさい」 厨二病全開のセリフと情景描写の約50ページ分を、今ここで暗記しろと? 冗談じゃねえ。三日掛けても無理だ。 「せめて、軽く目を通して」 切実な声に、渋々と肯く俺。 ざっとページを捲るが、ほとんど地の文のみで、真面目に読む気はさらさら無かった。 冒頭の会話から推察するに、かなり前に五更家の居間のテレビで見た、 主人公・真夜と旧敵・夜魔の女王が契約を結ぶシーンのようだが……。 「目を通したぞ」 「早いわね。それじゃあ冒頭の一文を読み上げて頂戴」 「えーっと……"真名を思い出した真夜は、夜魔の女王と再会を果たすべく、精神世界に没入(ダイブ)した"」 「違うわ。冒頭の真夜の『セリフ』よ」 なら初めからきちんとそう言えや。 「"これが真理の門……ここを通れば、俺はこれまで封滅した能力者たちと、再び相見えることになる……"」 うおお、鳥肌が立ってきた。 ただコスプレをするのみならず、セリフも言うとなると相当の苦行だな、こりゃ。 瑠璃はナレーター風に地の文を読み上げる。 「"長い葛藤の末、真夜はゆっくりと門に手を当て、押し開いた"」 「…………」 「"押し開いた"」 「…………」 「聞こえなかったかしら?"真夜が門を押し開いた"と言っているのよ」 「俺は今からナレーター……お前の言う通りに動かなくちゃならないのか」 「そうよ」 「俺の目の前にあるのは襖で、押し開くこともできないんだが」 「融通の利かない雄ね。これ以上わたしを失望させないで頂戴」 瑠璃はコホン、と空咳をひとつ、 「"長い葛藤の末、真夜はゆっくりと門に手を当て、押し開いた"」 俺はハァ、と溜息をひとつ、真理の門もとい襖を横に引いた。 内装は以前入ったときと特に変わりはない。 ただ、瑠璃の姿がどこにも見当たらなかった。 「"門の先に広がっていたのは、荒漠たる常夜の世界。 これまでに屠ったディアブロの想念を一身に浴びながら、 真夜はただひたすらに、夜魔の女王の気配を探し求めた"」 声は明らかに押し入れの中から聞こえているのだが、 突っこんでも余計な怒りを買うだけだと思い、 「"クイーン、お前の力が借りたい"」 「"真夜の心象世界に、彼の声は虚しく響き渡った。 負の思念は刻一刻と強くなっていく。長居は彼の肉体の所有権を、思念に奪われるも同義だった"」 「"出てこい、クイーン!俺の体が欲しくないのか!"」 「"真夜の精神体が限界を迎えかけたそのとき、紅蓮の炎が彼を取り囲んだ。 それは彼に害なす思念を灰燼に帰し、常夜の闇を嚇耀と照らしだした"」 ガラリ、と勢いよく押し入れの襖が開き、 二階部分から、新衣装を身に纏った瑠璃が現れる。 転倒を危ぶみ手を差し伸べると、ペシリ、と払い除けられた。 旧敵の助けは無用らしい。 「"クックック……無様ね、漆黒……いえ、今は真夜と呼ぶべきかしら。 姿形は能力者でも、肝心の力が使えないようでは、何の意味もないものね"」 瑠璃は横木に頭を打たないよう、姿勢を低くしながら押し入れから飛び出した。 お披露目をするように、クルリと畳の上でターンする。 そして上目遣いに俺を見つめ、 「どうかしら……おかしくない……?」 お前はいいよな。好き勝手に素に戻れて。 俺は上から下に瑠璃を眺め、忌憚なき感想を言ってやった。 「すげー似合ってるよ」 「……あ、ありがとう」 瑠璃が着ているのは、マスケラ二期の夜魔の女王の新コスチュームだった。 一期のロングドレス風とはうってかわって、上はスリーブレス、下はミニのフレアスカートと、 全体的に露出度の高い、要するにエロっちいテイストに仕上がっている。 おかげで俺のリヴァイアサンも僅かに復活し、 「また裁縫の腕上げたんじゃないか? ほら、こんな細かいところも――」 さり気なく触れようとしたところで、ひらりと身を躱される。 「"あなたがここに現れた理由は、全て分かっているわ"」 幕間はこれにて終了らしい。 「"ルシファーの裏切りに遭い、あなたは能力を失った。 他の能力者と戦うためには、新たなディアブロと契約を結ぶ必要がある。 けど、この私――夜魔の女王――が、そう易々と闇の力を譲り渡すと思って?"」 俺は冊子を構え直して言った。 「"どうすれば、俺と契約を結んでくれる?"」 「"あなたは一度私を滅ぼした仇敵。代償は大きいわよ"」 「"早く言え"」 初めて俺と真夜の気持ちが一致した瞬間である。 「"そうね……良いことを思いついたわ。 あなた、未来永劫、このわたしに傅くと誓いなさいな"」 「"ふざけるな。俺はお前の言いなりになんてならない。 交渉条件はイーブンだ。俺はお前と契約しなければ戦えない。 お前は俺と契約しなければ、俺が死ぬまで、この墓場のようなところで過ごすことになる"」 「"っふ、それはどうかしらね。わたしが存外、この場所を気に入っているとしたら?"」 「"……くっ"」 「"冗談よ。わたしとて、いつまでもこんな場所に引き籠もっているのはご免よ。 けど……、契約の前に、ひとつ約束して頂戴。 戦いが終わったその時は、わたしを闇の渦に返すと"」 「"分かった"」 瑠璃はナレーター役に転じ、 「"炎の円環の中、真夜とクイーンの距離は徐々に狭まっていく。 熱気と殺気に入り交じり、一刹那、肉欲の香が匂い立った"」 と言いながら、現実でも距離を詰めてきた。 なにしろ部屋が狭いので、移動は一瞬で終わった。 「"――これより、契約の儀を執り行う"」 瑠璃は厳かに言い……、前触れ無く、キスを仕掛けてきた。 応えようとしたところを、目線で制される。 されるがままでいろ、ということだろうか。 瑠璃の舌先が俺の唇を割り、まるで探し物を探すかのように、口内を満遍なく刺激する。 唾液の嚥下さえ許されない状況で、瑠璃は手際よく、俺の上着を脱がしていった。 瑠璃のひんやりした手が、俺の胸板に触れ、乳首を撫でさする。 「っ……く……」 変な声を上げそうになるのを必至に堪えながら、 俺は今の状況に纏わる、ある事実を思い出していた。 マスケラ二期の契約シーンは、その過激さから放送倫理に引っかかり、放映時に大幅な改変を余儀なくされたこと。 そして改変前の台本が制作関係者によりインターネット上に流出したと、掲示板で噂になっていたこと。 つまり、さっきの小冊子は……。 「……ん……む……っ……」 執拗に口蓋を侵され、思考を中断される。 復活した俺のリヴァイアサンに、瑠璃は右手で、衣装越しに触れてきた。 裏筋のあたりを爪先でなぞり、掌で玉袋の辺りを圧迫する。 情けない男の声が聞こえたと思ったら、それは俺自身の声だった。 「"契約には心身の同調が必要不可欠よ"」 夜魔の女王になりきった瑠璃が、耳許で囁く。 「"あなたはただ、わたしに身を委ねていればいい"」 耳穴が、温かく湿った何かに蹂躙される。 首筋を撫でられ、耳たぶを甘噛みされるごとに、背筋を快楽の電流が走った。 服越しの刺激だけで、射精してしまいそうな感覚があった。 「"フフ、出してしまいなさい、真夜。きっと、ものすごく気持ちよくなれるわ"」 瑠璃は俺の頭を抱え、止めとばかりに舌を絡めてくる。 股間を摩擦する瑠璃の手が速まり、重く、怠い感覚が腰を包み込む。 「ああっ、ダメだ……俺……もうっ……!」 勝ち誇った笑みを浮かべて、瑠璃は俺を見つめた。 俺も満面の笑顔で瑠璃を見つめ返してやった。 「"我慢できねぇ……なーんて言うと思ったか、夜魔の女王"」 「え?」 呆気に取られた瑠璃の頬を両手で挟み、今度はこちらから唇を押しつける。 玄関先でしたものと比較にならないほど濃厚なキスをしてやると、 瑠璃は腰が抜けたように座り込み、潤んだ瞳で俺を見上げた。 ささやかな背徳感が脳裏を過ぎる。 「"け、契約の儀はわたしが――"」 「"俺がしてやられてばかりだと思うなよ"」 攻守反転。 瑠璃の体に体重をかけ、畳の上に組み敷く。 手製の衣装を傷つけないよう、優しく上の着衣を脱がせると、 先ほどまでの威厳はどこへやら、瑠璃はイヤイヤをするように首を振った。 裸を見せ合った回数は既に十を超えているが、未だに羞恥は消えないようだ。 無論、俺としてもその方がそそるが。 「"契約を結ぶには、心身を同調させる必要があるんだろ? なら、俺もお前を気持ちよくしてやらないとな"」 「そんなセリフ……どこにも……や……んっ」 固く尖った乳首を口に含み、舌先でつつき、歯を立てる。 艶っぽい嬌声を聞きながら、瑠璃の秘所へと手を伸ばす。 サテン地のスカートを捲り上げると、ワンピースを着ていた時と違う黒の下着が覗いた。 おそらく、このコスプレのためにわざわざ履き替えたのだろう。 その役者魂には怖れ入るが……この分だと、また履き替える必要がありそうだ。 「"大洪水じゃねえか、夜魔の女王。 俺を責めてる時からこんなにしてたのか?とんだ変態だな"」 「ち、違っ……」 「……何が違うんだ?言ってみろよ」 言葉で嬲りつつ、俺は瑠璃の下着のクロッチ部分を脇にずらし、 濡れそぼった茂みに中指を埋没させていった。 股を閉じて抵抗しても、遅い。 親指の腹で充血した秘核を摩擦しながら、根本まで埋まった中指を、指先で円を描くように動かしてやると、 「っ……はぁっ……」 切なげな吐息を漏らし、身悶えする瑠璃。 しばし手淫を楽しんだ後、俺はお約束として、引き抜いた指を瑠璃の目の前に持って行き、 「"夜魔の女王も、所詮は女だな。いや、厭らしい雌か。 ぐしょぐしょに股ぐらを濡らして、ずっと男が欲しかったんだろう?あん?"」 あれ、真夜ってこんなキャラだったっけ。 自信は無いが、瑠璃の反応を見る限り、台詞選びは悪くなかったようだ。 「"そんなに意地悪……しないで頂戴……"」 白皙の肌を朱色に染めて、懇願するような眼差しを注いでくる。 ただそれだけの仕草で、俺のリヴァイアサンの硬度は三割増である。 俺は下の衣装を脱いで一物を取り出し、物欲しそうにひくつく割れ目に宛がった。 が、すぐには突き入れずに、瑠璃の耳許で囁く。 「"契約が完了すれば、俺とお前は対等の関係になるのかもしれない"」 「"…………"」 「"でも今だけは、俺がお前の主だ。 いいか、夜魔の女王。お前はこれから、ただの人間の男に、犯されるんだ"」 言い終えると同時に、一息に腰を沈ませる。 肉壺はこれまでにない熱さと湿り気で、俺の一物を包み込んだ。 「―――ッ」 背筋を弓形に反らせ、呼吸さえ忘れて快感に溺れる瑠璃。 性行時の快楽の度合いは、女の場合、精神状態が大きく影響するという。 その理論を信じるなら、夜魔の女王のコスプレをして、同じく仇敵・真夜のコスプレをした男に犯されているという状況は、 瑠璃に最高の快楽をもたらしているに違いなかった。 彼氏彼女のエッチよりも気持ちいい、と言外に言われたようで、悔しくないと言えば嘘になるが、 まあ仕方ないか、と諦めている自分がいるのも事実だ。 実際、普段よりずっと瑠璃の中の具合がいいしな。 「"もっとだ、もっと俺を満足させろ、夜魔の女王"」 小ぶりなお尻を抱え上げ、性欲処理機を相手にしているかのように、乱暴に腰を打ち付ける。 瑠璃は息を弾ませながら、 「"はぁっ……あっ……ふっ……あなた……真夜ではないわね……"」 役から外れすぎたか、と一瞬ドキリとしたが、 「"あっ……んっ……真夜の中の異形の血が……っ……本能の解放と共に目覚めたというの……"」 流石は瑠璃、脳内補正バッチリである。 コレ幸いと俺も追加設定に乗っかり、 「"ああ、そうだ。今の俺は真夜でも漆黒でもない、お前を犯し尽くすために生まれた人格だ"」 なるたけ低い声色で言い、根本まで一物を突きいれる。 最初の三回までは試行錯誤の連続だったものの、 今や瑠璃の体の悦ばせ方は、本人の次に知悉している自負が俺にはあった。 一物のカリ首を使い、秘核の裏側にあたる部分を、孫の手の要領で刺激すると、 「ああぁっ」と甲高い悲鳴を上げ、瑠璃はあっさりと絶頂に達した。 が、そこでストロークを加減してやるほど、俺が演じている役は優しくない。 「"もう……っ……ダメ……許して……お願い……"」 「"お前は黙って契約に集中しろ。 それともイキ癖がついて、契約に集中できなくなったか?"」 瑠璃は息も絶え絶えの様子で、首を横に振る。 「"はぁ……あぁっ……もう少しで……んっ……契約は、完了よ……"」 「"いいだろう。完了と同時に、俺もお前の中に、たっぷりと子種を注ぎ込んでやる。 どんなガキを孕むか楽しみだな"」 「"だ、ダメっ……それだけは……そんなことをされたら……わたしっ……"」 言葉とは裏腹に、瑠璃の中はキツさを増していった。 無数の襞が、ひとつひとつ別個の生き物のように絡みつき、 全体としての肉壁が、精を絞り尽くさんと蠕動する。 瑠璃に弄ばれていた時と違う、本物の射精感が込み上げてくる。 無論、さっきの台詞は演技で、俺は射精寸前で一物を引き抜き、瑠璃の真っ白なお腹の上で果てるつもりだった。 が、いざその時が来ると、一定以上腰を引くことができない。 理由は単純、瑠璃の両腕が俺の背中に、瑠璃の両足が俺の腰に絡みついているからである。 「お、おま……」 「大丈夫……っはぁ……今日は……安全な日……っ……だからぁ……」 ええい、ままよ。ここまで来たら、その言葉を信じるしかない。 俺は瑠璃の背中を浮かせるようにして、斜め下から一際強く、瑠璃の体を刺し貫いた。 「"イくぞ、夜魔の女王っ!"」 「"あぁぁあぁぁぁっ!"」 一体感に脳髄が痺れ、電流が脊髄を駆け抜ける。 溜まりに溜まった熱い塊を吐き出すように、俺は瑠璃の最奥で射精した。 「本当に大丈夫な日だったんだろうな」 畳の上に寝っ転がりながら、俺は隣の瑠璃に訊いた。 「……嘘はついていないわ」 危険日に中出しした場合、妊娠する確率は約10パーセントらしいが、 果たして安全日に中出しした場合は何パーセントなのだろうか……。 ああ、こんなことなら、もっと学友の猥談の輪に入っていれば良かったぜ。 「なあ……」 隣を見れば、瑠璃は未だ恍惚醒めやらぬ、と言った様子で、ぼうっと天井を見つめている。 「はは、よっぽどコスプレエッチが気に入ったか」 「な――わたしは本来、アニメに忠実な契約シーンの再現をするつもりだったのよ。 それをあなたが暴走して……」 「言い訳すんな。お前は最初から、俺を焦らして、暴走させるつもりだったんだろ。 そうすりゃ、俺に無理矢理コスプレエッチをさせられたって言い訳ができるからな」 きゅ、と下唇を噛む瑠璃。言い返せないってことは、図星だってことだ。 俺はそんな彼女の髪を、手櫛で梳いてやりながら、 「なら、最初から正直に言えっての。俺が嫌がると思ってたのか?」 「そんなこと……面と向かって、言えるわけがないじゃない」 それもそうか、と納得する。 俺だって瑠璃に『エッチの時俺のことをお兄ちゃんって呼んでくれ!』なんて死んでも言えねえ。 や、勘違いすんなよ、そんな願望はこれっぽっちもねえからな。 「これからは、好みの場面が出て来たら、遠慮なく言え。 俺も出来る限りの範囲で、役を演じてやるからよ」 「ええ……分かったわ。わたしは最早遠慮しない。 でも、当分の間は、二期の契約シーンに勝るシチュエーションは出てこないでしょうね」 やれやれ、そんなに真夜×夜魔の女王がお気に入りか。 真夜×ルシファーの健気責めツンデレ受け以外認めませんッ、という瀬菜の声が聞こえた気がしたが、無視した。 「けどな、瑠璃。コスプレエッチに協力するにあたって、一つ、条件があるぜ」 「何かしら?」 髪を撫でられるのが心地よいのか、蕩けた瞳で瑠璃がこちらを見る。 「コスプレエッチの後は、恋人同士のフツーのエッチもする。それが条件だ」 「ふふっ……」 と瑠璃は妖艶に笑い、獲物の反応を伺う蛇のように目を細めた。 「あなたは、真夜に妬いているのかしら? それとも自分の代わりがいるのではないかと、不安になったのかしら?」 ああ、そうだ。その通りだ。 俺はお前の望み通りの役柄を演じながら、一種の寂しさを感じていた。 瑠璃の目に映っているのは、俺ではなく、マスケラの主人公・真夜そのものなのではないか? 俺でなくとも、真夜を演じることができる男なら、瑠璃は誰でも良いのではないか? なーんてことを考えていたのさ。 「本当に、莫迦な雄ね」 瑠璃はくつくつと喉を鳴らし、身を起こして、俺の体にすり寄ってきた。 「わたしにとって、あなたは唯一無二の存在よ。 代わりなんていない。いるわけがない。 あなたがいなくなれば……、きっとわたしは死んでしまう」 「瑠璃……」 「さあ、今度は闇の契約ではなく……恋人の契りを交わしましょう?」 瑠璃が俺の上に跨がり、すっかり固さを取り戻した一物を、優しく手に取り、自身の秘裂に導く。 涎のように垂れる白濁液が、たまらなく淫靡だった。 「んっ……はぁぁ……」 一物が完全に呑み込まれる。 俺は瑠璃の体を引き寄せ、ぴたりと上半身を密着させながら、騎乗位で突き上げた。 「京介……あぁっ……好きぃっ……」 「俺もだ……大好きだぞ……瑠璃………」 コスプレエッチもいいが、やはり俺は、こっちの方が好みだ。 それから買い物に出かけた"二人"が帰宅する直前まで、俺たちは深く愛し合った。 さて、この話には少し続きがある。 五更家で晩ご飯――カレーライス――をご馳走になった俺は、 今、下の妹二人と一緒に、居間でテレビを眺めていた。 台所ではおばさんと瑠璃が洗い物をしている。 親父さんは家から遠く離れた仕事場で、泊まり込みでお仕事……らしい。 何度か顔を合わせたことがあるが、外見内面ともに穏やかな、優しい人だった。 壁時計が八時の鐘を鳴らすのと同時に、珠希が小さな欠伸をした。 「ん、珠希、もうおねむ?今日は早いね」 「買い物に行ったせいで、疲れたのかもな」 日向は普通のお姉ちゃんらしく、優しい口調で尋ねた。 「どうする?今日はお風呂入らないで、お布団入る?」 「……お風呂、入りたいです」 この歳でも女の子か。 「便所ついでに、風呂の準備してくる。寝入るなよ、珠希」 俺は珠希の頭を撫でて、立ち上がった。 五更家の勝手は知ったるもので、俺はさして迷うことなく、縁側の廊下を進んでいった。 「待って待って、京介くんっ!」 トットットット、と小気味良い八拍子が聞こえ、背中に何かが激突したかと思えば、日向だった。 「あたしもお風呂入れるの、手伝うよ」 「一人で出来る。つーか、手伝うって何を手伝うんだ」 「ねーねー、京介くんは今日お泊まりするの?」 人の話聞いてねえな、コイツ。 「しねえよ」 「え~~~~っ!なんでなんで? 今日はお父さんも仕事でいないしィ、あたしと一晩中ラブラブする絶好のチャンスじゃん?」 「黙れマセガキ。お前とラブラブしてどうすんだ」 「京介くんひっどぉ~~~~い!今あたし超傷ついたんだからね!」 ぷくーと頬を膨らませ、睨み付けてくる日向。 ……良い機会だ。ここらで灸を据えてやるとするか。 俺は屈み込み、日向と視線の高さを合わせて、 「お前、ラブラブの意味分かって言ってんのか?」 「えっ」 「ラブラブするってのが何をすることか、具体的に言えるか?」 「えっと、それは……」 日向は顔を真っ赤にさせて言った。 「し、知らないっ!」 「ウソつけ」 「ウソなんかついてないもん!」 「見たままを言えばいいんだ、できるだろ」 日向の顔色が、赤→白→青→赤と目まぐるしく変化する。 「お前なあ……覗きがバレてないとでも思ってたのか」 「……なんで」 「足音とか……なんつーか、気配?」 「ル、ルリ姉も知ってるの?」 「いいや、あいつは気づいてないみたいだ。 気づいてたら、何かしらお前に言ってただろうしな」 日向が俺とルリの秘め事を覗き見していることには、結構前から気づいていた。 今日、日向が母親の買い物に着いていった時も、 晩飯をオムライスとカレーライスのどちらするか珠希と揉めていたが、 結局出て来たのは珠希が希望したカレーライス、 日向が折れたのか、とおばさんに聞いてみたところ、 道中、突然日向が「友達を見つけたから喋ってくる!」と言って、お手伝いを放棄したからだそうで、 しかし日向の行き先は十中八九、俺と瑠璃が愛し合う自宅だったに違いない。 一部始終を盗み見た日向は、おばさんや珠希が帰ってくる頃を見計らい、 一度家を出た後で、友達と遊んできた風を装い、遅れて帰宅したのだろう。あくまで推測だが。 「京介くん、エスパー?」 当たってたのかよ。俺は溜息を吐いて言った。 「性に興味があることを、責める気はねえ。 でもな、そういうのは、保健体育の教科書見て満足しとけ」 「小学校で……そういうの、教えてくれないし」 「そりゃあ、お前くらいの年で、んな知識はまだ必要ねえからな。実技の観察なんて尚更だ」 踵を返して風呂場に向かうと、日向は俺の行く手に回り込み、腰の辺りに抱きついてきた。 「京介くんは、勘違いしてる。 あたしが京介くんとルリ姉が、エッチなことしてるの見てたのは……悔しかったから。 ルリ姉ばっかり、ずるい。あたしだって、京介くんのこと大好きなのに」 声には湿り気が混じり、本気の度合いが伝わってきた。 「……ルリ姉にしてるのと同じこと、あたしにもしてよ」 頭痛と目眩と顔の火照りが、いっぺんに俺を襲う。 オー、ジーザス。 なぜ神はかような試練を、無垢なる羊に与えたもうたのか。 どうすればいい。どうすれば、この場を丸く収められる? どう答えれば、日向を傷つけずにすむ? 「なあ、日向。顔を上げてくれ」 「……うん」 結局、俺は先人の知恵に頼ることにした。 彼女の妹に惚れられたが、その子の幼さ故に、慕情を退けざるを得ない、 そんなエロゲ的展開を乗り切れるのは、同じくエロゲ主人公のみである。 ありがとう桐乃。俺、マジで妹ゲーやっといて良かったわ。 「俺がお前に、瑠璃にしたみたいなことをしたら、色々と問題があるんだよ。 それくらいは分かるよな?」 「うん……犯罪になっちゃうんだよね?」 「そうだ。それに何より、お前の体が、まだ完全に男を受け入れられるように出来てない。 お前も最初に覗いたときは、怖かったんじゃないか?」 コクコク、と日向は頷き、 「でもね、ルリ姉も最初の頃はすっごく痛がってたけど、 三回目くらいからかなぁ、今度はすっごく気持ち良さそうに――」 「あーあー皆まで言うな。とにかく、だ。 お前が俺とそういうことをするには、まだ五年も六年も早い。 いっぱい飯食って、いっぱい成長して、出るとこ出してから出直してこい」 俺は冗談交じりに言って、日向の胸を突いてやった。 きゃ、と可愛らしい悲鳴を上げて、日向は無い胸を隠す素振りをする。 「京介くんのエッチ……でも、期待してもいいんだよね」 「おう」 中学生、高校生に上がれば、日向も人並みに恋をするだろう。 そうすれば数年後には、この日の約束は、恥ずかしい思い出として風化しているはずだ。 俺はそう高をくくっていた。 「あたし、一途だよ。京介くんが思ってるより、ずっと」 ちゅ、と懐かしい響きが聞こえた。 「呪い、かけたから。ルリ姉がかけたのと、同じくらい強力なヤツ」 はにかみ笑いを浮かべた日向が、ステップを刻んで距離を取る。 唇に残る、熱く湿ったキスの痕。頬にされるのとは訳が違う。 しかも呪いって……お前は五更家の反厨二病勢力筆頭じゃなかったのかよ。 狼狽える俺を余所に、日向の体がピタリと静止した。 「どうしたんだ……?」 「…………」 日向は一点を凝視したまま、一言も喋らない。 俺は妙な胸騒ぎを感じて振り返った。 ――夜魔の女王がそこにいた。 「そう。そういうことだったのね。 これまで考えすぎだと、有り得ないと、自分に言い聞かせてきたけれど……。 やっぱり、わたしが甘かったみたい。 あなたがここまで節操のない雄だと、見極め切れていなかったのだから」 「瑠璃、少しでいい。少しでいいから俺の話を、」 「言い訳無用。あなたの罪は極刑……いえ、万死に値するわ」 「ル、ルリ姉、京介くんは悪くないよ」 「黙りなさい」 「ひうっ」 ああ、今日は世にも珍しい日だ。 黒猫、白猫、エロ猫、そして闇猫。瑠璃の四変化を見られるなんてな。 どこから持ってきたのだろうか、彼女の手には、鋭利なGペンが握られていた。 あれで刺されたらさぞかし痛いことだろう。 「死になさい」 ああ、いったい俺は、どこで選択肢を間違えちまったんだ? 凄艶な笑顔が、鬼の形相に変わった。 俺は土下座作戦を中止し、裸足で庭に逃げ出した。 おしまい!
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桐乃がアメリカに留学して1ヶ月。 ここ最近、何をするにもあいつが絡んでいたせいで、俺はすっかり気力が無くなっていた。 学校には通うものの、幼なじみの麻奈実や、なぜか俺の後輩となった黒猫らと絡む気力も無く、 毎日テキトーに授業をこなして、家に帰る。 唯一の楽しみといえば、桐乃の部屋であいつが残していったエロゲーをプレイすることだ。 ノーパソはあいつがアメリカに持っていっちまったから、デスクトップを借りてやっている。 最初は妹のものを勝手に使うことに抵抗があったが、なに、あいつが留守の間、 コレクションを守ってやるという対価だと思えば、そんなもの、軽く吹き飛んじまった。 俺がマウスを握るたび、あいつの手のひらの感覚が俺の手の甲に戻ってくる。 クリックをするたび、妹キャラを攻略するたび……。 俺は……。 俺は桐乃を思い出してオナニーをするようになった。 「あぁぁ……桐乃…桐乃たん……ハァハァ…」 妹の部屋で、妹モノのエロゲーをプレイして妹をオカズにオナニーをする。 変態と言われようが構わない。事実、俺は実の妹を脳内で犯して興奮するような男なのだ。 タンスに残っていた桐乃の下着で、固くなったモノを包み、しごく。 最高の感触だった。桐乃が身に付けていた下着というだけで俺の肉棒はガチガチになって、 精液を吐き出すべく膨張している。 「桐乃…きりの……うぁ…」 びゅっ、びゅびゅっ、びゅうっ! 肉棒を包んだまま、妹の下着を白濁液で汚していく。受け止めきれなかった汁が、 じわりと染み出して液だまりを作っていく。 「ふぅ……やはり実妹ルートに入るにはフラグ管理が必要か……」 エロゲーの話ではない。現実の話だ。 アメリカに陸上競技の留学に行っている桐乃は今現在、体調が崩れて満足な記録が出ないという。 きっと愛する兄と離ればなれになってしまい、お兄ちゃん分が不足しているに違いない。 意外と脆い桐乃のことだ。近いうち必ず日本に帰ってくるだろう。 「うまく行くと思っていた海外留学で、思ったような成果が出ずに打ちひしがれる桐乃……。 そこを俺が抱きしめてやる!お兄ちゃん!桐乃!そして二人は結ばれる…」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーTrue end.《真実の愛》ending no.19ーーーーーーーーーーーーーーーーー 完璧だ。『しす×しす』のフラグを空で暗唱できるほどやりこんだ俺なr 「気持ち悪い……。さっきから何をぶつぶつと呟いているんですか。通報しますよ?」 「おわっ!」 背後からの突然の声に、俺は椅子から飛び退いて声の方向に向き直る。 「……やっぱり京介さんが変だっていうのは本当だったんですね」 あやせが立っていた。なぜか今日はメガネをかけている。 「あ、あやせたn……あやせ、なんでうちに?」 「麻奈実さんに言われたんです。お兄さんが何か変だ、って。話しかけてもボーッとしてるし、 いつもは一緒にやってる勉強も乗り気じゃなくて、学校が終わったらすぐに家に帰ってしまうって。 それに今だって桐乃の部屋で、その、いかがわしいゲームをしているし」 それで、うちに来た? 「でも……なんであやせが?麻奈実とはあんまり面識ないだろ?」 「えー?麻奈実さんとは結構仲いいんですよ?わたし」 そうだったのか……。ここらへん、女ってよくわからない生き物だと思う。 「それで麻奈実さんが“私じゃ駄目だと思うから…”って、なんでかわたしが頼まれました」 「じゃ、じゃあそのメガネは?お前視力悪かったっけ?」 「いえ、新しい春コーデを試してみたんですけど、何か物足りないのでメガネをかけてみました」 伊達ですけど、と最後にあやせは付け加えた。 「似合います?」 「あ、ああ……似合ってる」 「そうですか?えへへ、やったぁ」 くるり、とその場で一回転するあやせ。甘い匂いが鼻腔をくすぐる。 「やっぱりお兄さんは桐乃のお兄さんなんですね」 「……どういうことだ?」 少し俯いて、あやせは虚ろな目で俺に視線を戻す。 「桐乃はお兄さんのことを悪く言ってますけど、それが本心じゃないことなんてとっくにわかってます。 桐乃はお兄さんのことを好きでたまらない。でも……辛いのを我慢して、わたしたちに黙ってアメリカに行った。 そして、お兄さんも桐乃が好き。その証拠に、こうやって桐乃の部屋で桐乃のことを思い出している」 ……いや、間違っちゃいないけど、俺は妹でオナニーしてたんだからね? 「桐乃がいないから、お兄さんは寂しいんですよね?ですから……」 急にもじもじとしだすあやせ。顔を火照らせ、じっと俺の目を見ている。 「桐乃がいない間、わたしが……京介さんの、妹になってもいいですか?」 ハーレムエンドフラグktkr! 一歩、二歩とゆっくり俺に近寄り、右手を差し出し、俺の胸板に軽く触れる。 「京介……お兄ちゃん?」 その瞬間、俺の中の何かがはじけた。 「黒髪ロング眼鏡妹あやせたん黒髪ロング眼鏡妹あやせたん黒髪ロング眼鏡妹あやせたん 黒髪ロング眼鏡妹あやせたん黒髪ロング眼鏡妹あやせたん黒髪ロング眼鏡妹あやせたん 黒髪ロング眼鏡妹あやせたん黒髪ロング眼鏡妹あやせたん黒髪ロング眼鏡妹あやせたん 黒髪ロング眼鏡妹あやせたん黒髪ロング眼鏡妹あやせたん黒髪ロング眼鏡妹あやせたん」 「ひぃィっ!」 一転、青ざめた顔で後ずさるあやせ。 「あやせたんあやせたんあやせたんあやせたんあやせたんあやせたんあやせたん あやせたんあやせたんあやせたんあやせたんあやせたんあやせたんあやせたん」 ゾンビの様に両手を前にならえして、あやせを抱き寄せようとにじり寄る。 「変な呪文を唱えないでくださいっ!」 ラクーンシティに湧いたゾンビから逃げるべく、踵を返し逃げるあやせ。 しかし足がもつれて転んでしまった。それでも何とか狭い室内で俺から逃げようとして、 四つん這いのまま手足をじたばたさせる。 その拍子にスカートがまくれあがって、パンツが丸見えになっている。 大人っぽい黒のレース。 そんなんじゃだめだ。中学生なんだから、もっとかわいらしいのを履かないと。 「俺が履かせてあげるよ」 四つん這いのままのあやせの尻に手を伸ばし、一気にパンツを膝まで下ろした。 白くて肉付きのいい尻の間に、ぷっくりとふくらんだ割れ目が見えていた。 「やだっ!何するんですかっ!痴漢!変態!やめてください!」 大事なところを覗かれて、あやせは髪を振り乱してもがいている。 「お兄ちゃんにそんなこと言っちゃダメだろ」 パァンッ! 「きゃあっ!」 勢いよく尻を叩く。何度か叩くうち、みるみるとあやせの尻は赤くなっていく。 「やぁっ、京介さん、やめてくださいっ!」 パァンッ! 「はぁんっ!」 尻の赤みと比例するように、あやせの声に段々と色が混じってきた。 あぁ……あやせたんは尻を叩かれて感じるドMだったんだね。 手のひらを見ると、透明な粘液が付着していた。あやせの尻……いや、性器から漏れ出た液だ。 「濡れてる……」 「いやぁ……言わないでください……」 体を固くして、ふるふると小動物のように震えるあやせ。 ぶっちゃけ俺も体を固くしてたんだけど。一部分だけな! 「お兄さんって本当に変態ですね。妹の部屋で妹の友達のお尻を叩いて……。 し、しかも、お、おちんちんをそんなにおっきくして……」 赤面するあやせたん。やべーちょう萌える。 「わたしも、お兄さんと同じ変態です……。こんなになっちゃって……。 もう、こんな格好させて、責任とってもらわなきゃ死んでもらいますからね」 一瞬の隙を見て俺の腕から逃れて、俺と対面するかたちで正座するあやせ。 俺の顔をそっと撫でて、顔を近づけ……唇と唇の淡いキス。 伊達メガネがほんの少し、邪魔だった。 「ホント、女の子からキスだなんて、死んでください」 憎まれ口を叩いたあやせの顔は、笑っていた。 俺も内心、ほくそ笑んでいた。 あやせたんのHシーン、ゲット。 桐乃のベッドで、あやせと二人。俺が上で、あやせが下。 もちろん!メガネはかけたまま!パラダイス! 「京介さん……、やさしくお願いします」 俺は無言で、あやせの穴に肉棒をあてがう。ピンク色をしたわれめの、下のほう。 無修正!モザイクなし!メガネあり!たまらんね! 濡れそぼった割れ目は、俺の肉棒をぬるっと飲み込んでいく。 途中、わずかな引っ掛かりがあったが、体重に任せて押し込んだ。 根元まで入ったところで、あやせの耳元で囁く。 「あやせ……愛してる」 前にやったエロゲーと同じセリフ。これであやせたんはぼくのもの。 「はい……わたしも……同じ気持ちです…」 あやせたんは背中に手を回して、ぎゅっとしてくれた。 ハァハァ……もう我慢できないよ。 「あやせ……動くから」 返答を待たずに、ピストンをはじめる。 股と股が触れあうたびに、乾いた音とくちゅ、くちゅという濡れた音が部屋に響く。 「はぁっ、あっ、お兄さんのおちんちん、きもちいいですっ! わたしのぉ、ここに、お兄さんのが、出たり入ったりしてますっ!」 「ぁあっ、あやせ、あやせっ!あやせの中、あったかくて、ぬるぬるしてきもちいいよっ!」 互いに快感を確かめあって、更なる快感に昇りつめていく。 「ぁっ、だめっ!あぁっ、きもちいいのぉ、お兄さんのおちんちんが、おまんこのおくで、 わたしの大事なところを叩いてますぅっ!」 あやせの中を少しでも長く感じていたかったが、初めて味わうあまりの快感に、 俺は限界が近いことを悟った。 「あやせっ!もう出るよ、あやせの中に、俺の、出すよっ!」 「はい、わたしももう、イっちゃいますからっ!くださいっ、お兄さんのぉ、 わたしのなか、お兄さんでいっぱいにしてくださいっ!」 互いに手を握りしめ、フィニッシュに向けて小刻みに腰をふっていく。 「イクっ!イクっ!あやせっ!大好きだ、あやせっ!うぅあっ、イクっ!」 びゅるっ、びゅっ、びゅびゅっ、びゅうぅ! 「ああああっ、出てるっ!お兄さんのせいえき、どくどくって、 いっぱい出てますっ!ふぁあ、あ、あつい……」 「ぉあぁ……あやせ…」 とんでもない量だった。自分の手でするのとは全然違う。 途方もない快感が全身を走り抜けた。 穴から肉棒を抜いてからも、精液は出つづけた。 「ぁは……こんなにいっぱい出して……お兄さん…大好きです…」 メガネにかかった精液を舐めとり、あやせは微笑んだ。 「責任、とってくださいね?……ね、お兄ちゃん?」 あやせの眠るベッドの上で、俺は、次の攻略対象を誰にすべきか考えていた。 一周目からハーレムエンドは、やっぱり難しい気がしてきたぜ。
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http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308729425/96-111 燦々と降り注ぐ灼熱の日差し。 焼けた砂浜は柔らかい白。 打ち寄せる波は透き通る青。 夏で、海だった。 「兄貴ー、こっちこっちー!」 俺がぶらぶらと散歩をしている間に着替えを済ませた妹が、 ビーチパラソルの影から飛び出してくる。 黒のビキニと白の素肌のコントラストが眩しい。 「どお、似合ってる?」 「ああ、可愛いぞ」 妹は顔を綻ばせ、波打ち際に走り出す。 「競争だよっ」 俺はジーンズとTシャツを脱ぎ(水着は元々穿いてきていた)、妹の背中を追いかけた。 結果は惨敗。 くるぶしを海水に浸し、涼に気を緩めた俺を、水飛沫の洗礼が出迎える。 「あははっ、兄貴ってば、走るの遅すぎィ。食らえっ」 「うわっ、マジやめろって……こんにゃろ」 俺は水飛沫を返しつつ、猛攻を避けつつ、妹との距離を詰めていく。 そして――。 「悪さをするのはこの手か?」 「やっ、離してよぉ。もうしないからぁ」 言葉とは裏腹に、妹は抵抗する素振りを見せない。 濡れたライトブラウンの髪が、妹の額に張り付いていた。 それを取り払ってやりながら、ごく自然に、唇を合わせた。 「んっ……はぁ……っ……」 軽く舌を絡ませる。 交わした吐息は、夏の空気よりも熱く湿っていた。 妹は銀色の橋架を指先で切りながら、 「……海の味がした」 これまた詩的なことを言う。 俺は原因を言ってやった。 「お前にさんざ海水をぶっかけられたからな」 「あはっ、それもそうだよね」 妹は無邪気に笑い、俺の胸に抱きついてくる。 普段なら優しく頭を撫でてやるところだが……露出した肌と肌の触れあいが、否応なく性欲を刺激する。 俺は……。 1.せっかく海に来たんだ。泳がなくてどうする。 2.りんこへの愛を抑えることはできない。 ――ここまでエロゲ。 しすしすスペシャルファンディスクの主人公と義理の妹りんこりんの物語である。 一応訊いとくが、まさか俺と桐乃の物語だと勘違いしてたヤツはいねえよな? 「どっち選ぶの?」 と桐乃が催促してくる。 そう慌てるな。 俺は淀みなくマウスを動かし、1番を選択した。 「……………なんで?」 「そりゃあ、海に来たんだから、泳がなくちゃ損だろうが」 というのは建前で、2番からは危険な香りがプンプン漂ってくるからである。 妹と一緒にエロゲーのHシーンを鑑賞したところで、死ぬほど気まずいだけ。 一年前はそう思っていた。 が、ここ最近、特に俺たちの肩書きが兄妹と恋人(←new)に更新された一時間ほど前からは、 一年前とは別の意味で、Hシーン回避に全力をかけている俺がいる。 「でも、なんでこんなところに選択肢があるんだろうな」 大抵のファンディスクは一本道じゃないか、と素朴な疑問を口にすると、桐乃は不満げに唇を尖らせて、 「エロゲーにも色々あるでしょ? 純愛ゲーとか抜きゲーとか。 しすしすはどっちかって言うと純愛ゲーで、Hシーン飛ばしてる人も多いんだよね。 そういう人に配慮したんだと思う。 あたしには理解できないケド」 あのー、エロゲって基本、男性向けですよね? 妹萌え成分を日常描写から補給するのはまだ理解できるとして、 女のお前がHシーン見て何が楽しいんだよ。 お前もしかしてアレか、主人公に自己投影して、ヒロインを犯す気分を味わってるのか……。 と訊くまでもなく、桐乃は答えを言ってくれた。 柳眉をいっぱいに逆立てて。 「Hシーン飛ばす人は、しすしすの魅力を何も分かってない! だってだって、快楽に身悶えするりんこりんの表情、ホンットに超可愛いんだよ!?」 オーケー、お前の魂の叫びはとくと伝わった。 だがもうちっと声のトーンを抑えような? 家に親父やお袋がいたら、確実にすっ飛んできてたぞ。 それからしばらくは平穏な日常描写が続いた。 主人公とりんこりんは色々な場所に出かけ、夏を目一杯満喫した。 作中に漂う雰囲気的に、エンディング間近といったところで、 「もっと早くにプレイすれば良かった」 と桐乃が呟く。 「このファンディスクが発売されたのはいつなんだ?」 「先月の初めくらい、かな」 「意外だな。お前がしすしすの続編を一ヶ月も積んでたなんてよ」 「んー……色々と忙しかったからね」 リアの来日に偽装デート、コミケ遊覧に御鏡襲来と、確かにイベント盛りだくさんだったな。 でも、それとなく時間を見つけてプレイすることは出来たんじゃねえか? 「あ、あたしは……兄貴と一緒にやりたかったの。 しすしすはたくさんあるエロゲの中でも、特に思い入れのある作品だし?」 「桐乃……」 俺はじんと来ていた。 傍から聞いてりゃトチ狂った兄妹と思われても仕方ないが、今更恥も外聞もねえ。 桐乃可愛いよ桐乃。 内心の倒錯的な愛情を紳士的な台詞に変換し、 「なかなか構ってやれる暇が作れなくて悪かった。 でも、お前も遠慮すること無かったんだぜ」 いつもみたく部屋に飛び込んで来て、 『エロゲーしよっ!』と俺を引きずって行けばよかったんだ……。 いや、ここ最近は偽彼氏事件が尾を引いて、険悪なムードが続いていたんだっけか。 桐乃はディスプレイに視線を戻し、 「……夏、もうすぐ終わっちゃうね」 ゲーム内時間は、八月の終わり。 現実時間は、八月の半ばを過ぎたあたり。 常日頃からニブチンと叩かれてやまない俺も、このときばかりは言外の意図を察したさ。 「何言ってんだ。 夏休みはまだ二週間近くも残ってるじゃねえか」 遊園地に海にプールに花火大会に流星鑑賞、夏の風物詩を楽しむ時間に不足はねえよ。 この主人公の受け売りみたいでイヤだが、 「行きたいところがあるなら言え。 どこでも連れてってやる」 「どこでも?」 「ああ、どこでもだ」 「じゃあ、海がいい。 撮影の時に使った水着、何着かもらってて、それが超可愛くてさぁ――」 桐乃の話に相槌を打ちながら、俺はマウスをクリックする。 街での買い物を終えた主人公とりんこりんは、手を繋いで帰路を歩む。 流れるはひぐらしの清音、背後に伸びる影法師は細く長く。 『いつまでも一緒だよ』と最後に互いの想いを確かめ、画面が暗転、Endの三文字がフェードイン。 佳境もなく、劇的なオチもなく……。 そんな、純愛日常モノのファンディスクにしてはありきたりの最後を予想していた。 結果から言う。 エロゲはやはりエロゲだった。 帰宅した主人公とりんこりんは、買い物袋を床に置き、一息吐いたところで見つめ合った。 『ねえ……あたしたち最近、シてなくない?(←りんこりん)』 そりゃそうだ。 Hシーンに繋がりそうな選択肢は徹底的に避けていたからな。 どうせ今回もH回避用の選択肢が用意されているんだろう、とクリックを続けると、 『あたし、もう我慢できない(←りんこりん)』 『俺もだ。好きだ、りんこ(←主人公)』 最後の最後の不可避H……だと? おい待て、性欲に溺れるのはやめろ! 俺の心の叫びも虚しく、画面にはピンク色のエフェクトがかかり、立ち絵は美麗CGに変化する。 流石は本編で初H経験済みの二人とあって、 あれよあれよという間にりんこは生まれたままの姿に早変わり。 ゴクリ、と喉を慣らす音が重なった。 マウスにかけた指先が止まる。 「先、進めないの?」 「いいのか、進めても」 俺の本能の箍が最後まで壊れない保証はできねえぞ。 あと無意識でやってるのか知らんが、内股をもじもじと擦り合わせるのはよせ、 それ女の扇情的な仕草ランキング審査委員特別賞を受賞するレベルの仕草だから。 桐乃は平静を装っているのがバレバレの声音で、 「こ、ここからが良いトコでしょ。 あたしに言わせれば、なんで今まで避けてきたの、って感じ」 「……分かったよ」 どうなっても知らねえからな。 俺は設定で『オートモード』を選択する。 よほど溜まっていたらしく、前戯もそこそこに主人公は挿入を開始した。 『匂い立つ雌の匂いに目眩がした。 濡れそぼった茂みを掻き分け、秘蜜の源泉たる割れ目を探し当てる。 軽く腰を突き出しただけで、一物はいとも容易く呑み込まれた。 ぴっちりと絡みつく肉襞は、喩えるなら飢えた獣だ。 一刻も早く精を絞り尽くさんと、蠕動の妙絶にて一物を攻め立ててくる。(←主人公モノローグ)』 『あぁっ……いいよっ……兄貴、もっと動いてっ……もっと激しくしてぇっ……!(←りんこりん)』 序盤からクライマックスである。 文章やCGからは目を逸らせても、如何ともしがたいのがエロボイスで、 りんこりんの艶やかな嬌声を聞かされてリアルの一物が反応しないヤツは、 聖人君子か不能者くらいだろうよ、と俺は誰ともナシに言い訳する。 つまるところ、俺は勃っていた。 それとなく片膝をついてテントを隠し、バレてないよな、と隣を見れば、 桐乃はハァハァと呼吸を荒くしてりんこりんの肢体に魅入るでもなく、 顔を真っ赤に上気させ、両手を内股に挟み込み、切なげな呼気を漏らしてこちらを伺っている。 ああ、クソ。 ただでさえ理性が飛びかけている時に、反則行為の三点セットときたもんだ。 心頭滅却すれば火もまた涼し、と故人は言ったが、そいつ結局焼死してて説得力に欠けるから困る。 「しても、いいよ?」 と不意に桐乃が言った。 目的語不在の言葉に、想像の両翼は自重を知らずに羽ばたき始める。 「兄貴も男だし、あ、あんまり我慢するのも体によくないと思うし」 それにさ、と桐乃は俯いて言う。 「さっきも言ってたじゃん。 あたしたちの他に誰もいないときは、恋人らしいことをするって……」 親は日帰り旅行で不在。 俺たちは家に二人きり。 傍らには清潔なベッド。 恋人っぽいことをするには絶好のシチュエーションだ。 これ以上は望めない。 またしても心の悪魔が囁く。 今犯さずしていつ犯す? 心も体も準備万端、押せば倒れる脆さを晒す女を前に、逡巡はどこまでも無価値だぜ? ……応とも。 まったくもってお前の言うとおりだ。 今まで何を悩んでたんだか、自分が馬鹿らしくなってくるね。 理性よさらば。 本能よこんにちわ。 俺は桐乃に覆い被さりかけ――。 「してもいいよ……キス」 ――目を瞑り、薄桃色の唇を突き出す妹の姿を見た。 え?……キス?キス、だけ? あー……あっはっはは、そうですよね、いや、うん、分かってたよ、 恋人らしいことと言えば、チューに決まってるじゃないか、もちろん俺は最初からそのつもりだったさ。 とまあ白々しい言い訳はここまでにして、たとえキスでも、 俺たちの肩書きを鑑みれば、栄えある背徳的行為第一号には変わりない。 緊張と興奮に脳髄が痺れた。 が、次の瞬間には、俺は桐乃の唇に、自分のそれを押し当ててていた。 「んっ……」 妹とキスしている。 非現実的な現実は、不思議とあっさり飲み込めた。 舌先で閉じた唇を割り、桐乃の舌を探し当てる。 「っ……ぁ……ふぁ……」 ここまでされるのは予想外だったんだろう。 桐乃は驚きに大きく目を見開きながらも、 数秒後には、自分から舌を絡めてきてくれた。 淫靡な水音が響く。 唇と一緒に唾液を吸い、舌で口蓋を蹂躙する。 このとき既に俺の脳味噌は完全に出来上がっていて、 手は桐乃の後頭部から、着々と胸へと南下しつつあった。 ヤバイ。止まらねえ。 桐乃も止めろよ。 許すのはキスだけで、最後までするのはイヤなんじゃないのかよ。 指先が至上の弾力に触れる。 「あっ……」 さあ平手打ちしろ。渾身の力で俺を突き飛ばせ。 果たして桐乃はピクリと身動きしたのみで、 ああ、なんてこった、暴走は看過されちまった。 もはや俺を阻むものは何も無い。 俺はそっと桐乃に体重をかけ、本格的に南方侵略を開始した。 その時だった。 「ただいまー。桐乃、京介、二階にいるのー? お母さん帰ってきたわよー」 脳裏を過ぎるは、最悪の未来。 まぐわう息子と娘を目撃したお袋は、まず絶句し、次に親父の名を叫び、最後に卒倒するだろう。 俺たちは迅速かつ的確に行為の証拠隠滅を完遂した。 即興のコンビネーションは血の繋がりが成せる業か。 トントン。 「入るわよー?」 「は、はぁい」 「桐乃ー、京介どこにいるか知らない?……って、あんた桐乃の部屋で何してるの?」 「桐乃に勉強見てくれって頼まれてさ。 夏休みの宿題で難しいところがあったみたいで……な、桐乃?」 「そっ、そうなの! 理科の先生が超意地悪でさあ、有り得なくらい難しい宿題を出してきたんだよね」 お袋はジト目で俺たちの顔を交互に見遣り、 「ふぅん、桐乃が京介に宿題を手伝ってもらうなんてねえ……いつ以来かしら」 これ以上追及されたらボロが出る。 そうなる前に、と俺は訊いた。 「お袋たち、帰りは遅くなるんじゃなかったのか?」 「それがねえ、あの人、急に職場から呼び出さちゃって、 一人で温泉を楽しむのもアレだし、帰ってきたのよ」 なるほど、さっきから親父の気配を感じないのはそのせいか。 幸いなことにお袋に長居するつもりはなかったようで、 「京介、あんた桐乃に勉強教えてあげるのはいいけど、変なことしちゃダメよ」 と釘を刺して出て行った。 俺は桐乃と顔を見合わせ、深い深い息を吐く。 お袋は冗談で言っていたのだろうが、ついさっきまで俺たちは「変なこと」の真っ最中だったのだ。 「ふふっ、危ないトコだったね」 ここで笑えるお前の胆力に感心するよ。 ピンク色のムードはどこへやら、緩慢な空気が流れる。 桐乃はおもむろに唇に人差し指の腹を当てると、 「さっきの……ファーストキスじゃなかった、って言ったらどうする?」 「別に……どうもしねえよ」 お前も中学三年生だ。 兄妹関係が冷え切っていたときに、 彼氏の一人や二人いたとしても、今更怒りやしないさ。 「ぷっ、兄貴ってば、すっごい顔が強張ってる」 「うるせえ」 「あたしのファーストキスを奪った誰かに嫉妬してるんだ?」 こいつめ、なんでこんなに嬉しそうなんだ? 俺の心をナイフで抉るのがそんなに楽しいのか。 「やっぱり忘れちゃってるんだね」 何を。 「小さい頃に、キスしたこと」 誰と誰が。 「あたしと兄貴が」 マジで? 「うん。今日みたいに、あたしと兄貴がお留守番を任されたことがあって、 そのときに二人でテレビ見てたら、ちょうど昼ドラが流れてたの。ドッロドロのやつ」 止めろよ、当時の俺。 なぜ桐乃の目を覆って子供アニメのビデオをセットしてやらなかったんだ。 「そんなに過激なシーンは無かったよ。 あっても、精々キスくらい。 それでね、あたしもあんたも、その頃は全然そういうことを知らなくて、 二人で実際にやってみない?ってことになったの」 「どっちが言い出したんだ?」 「……あ、あんたに決まってるじゃん」 怪しい。 が、今言及すべきはそこじゃない。 「それがお前のファーストキスか」 「うん。でも、あたしが言うのもなんだけど、あんなのはファーストキスのうちに入らないと思う。 半分、遊びみたいなものだったし、あんたは次の日には忘れちゃってたし……」 なぜ恨めしげな目でこちらを見る。 俺は言った。 「それじゃあ、実質的なファーストキスはさっきの、ってことでいいのか」 「うん。そだね……それでいい」 桐乃はクスリと笑い、冒頭のりんこりんの台詞に準えて言った。 「……ソースの味がした」 これまた散文的なことを言う。 俺は原因を言ってやった。 「昼飯に焼きそばを食べたからな」 「あはっ、それもそうだよね」 それから俺たちは、ひとつ約束事をした。 次に恋人らしいことをするときは、事前に歯を磨いておこう、ってさ。 おしまい! 続くかな~?
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http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1286349444/526-538 月明かりのあやせ 「はーい、じゃあ今日の撮影は終了でーす」 「お疲れ様でしたー」 撮影が終わってスタッフさんたちが後片付けを始める。 あやせや他のモデルの娘たちも「ふぅ」と仕事を終えて笑みを浮かべながら俺たちマネージャーの元へと戻ってきた。 「おつかれ、あやせ。長丁場だったから疲れたろう」 ほらよとドリンクを手渡して、木製の折りたたみ椅子を勧める。 「ありがとうございます、お兄さん! はぁ~疲れたー」 天使の笑顔を俺に向け、椅子に座って冷たいドリンクを口に運ぶあやせ。こくこくと美味しそうに鳴らす喉は汗が少し流れていてなんだか扇情的だ。 くぅぅ~~~~~~~、マジ来て良かったぁぁァァッ! らぶりぃ~まいえんじゅえぇぇぇぇるあやせたんのこんな姿が見れるなんて、こんな山奥くんだりまでやってきた機会があったってなもんだよな! そう、俺とあやせ(正確には撮影スタッフさんや他の事務所のモデルの子もいたがそれは置いとく)は避暑地としても有名な、山あいの高原に撮影のためやってきていた。 なぜそんなところへという説明には話は数日くらい前にさかのぼる。 その日俺は部屋で勉強をしていた。 夏休み、時計が午後三時を示していて俺の集中力もいい加減切れかけていた頃。 机のわきに置いていた携帯から着信音が鳴ったんで出てみると、 『……あ、出ちゃった。……どうも、こんにちはお兄さん』 携帯にかかってきた相手はあやせだった。 「あやせか、久しぶりだなー元気にしてたか?」 『え、ええ。おかげさまで……』 電話をかけてきたのにやけにぎこちない声。 なんだ? やけに歯切れ悪く話してんな、第一声が『出ちゃた』とか言ってたし。 電話かけてきたくせに俺が電話に出ると何か不都合でも? 『えと――あの、お兄さん。あさって辺りって……空いてたりしますか? いやもちろん忙しいですよね、うん忙しいなら仕方無い――』 「チョー暇だ!」 全力で答えました。 赤城と会う約束していたような気もするが、今それは気のせいに変わった。 なにやら俺の予定を聞いてくる辺り、俺の敏感な嗅覚がくんかくんかしちゃったもんね。 「いやーまさかオマエからデートの誘いがあるなんて夢にも思わなかったぜ」 『だ、誰がデートですか! 違います! どうしてわたしがお兄さんをデートに誘わなくちゃいけないんですかっ! ~~~~っもおぉぉぉぉ、だから電話したくなかったのにぃ』 「そうだな、駅前のデパートとかはどうだろ? あそこで飯食ったりなんかして」 『ださ! そのデートプランはどうかと思いますよお兄さん? そうですね、わたしが行きたいのは――って違います! 話を勝手に進めないでください!』 「冗談だ。で? もしかしてまた相談ごとか何かか?」 心底いやそうに嘆くあやせをなだめつつ俺は用件を聞きだした。 『えっと、実は来週わたし撮影でロケに行くことになってまして――』 あやせの話はこうだ。 一泊の泊り込みのロケ撮影――くだんの避暑地を雑誌で紹介することも含めて――をする企画があり、あやせもそれに参加することになっていた。 ところがあやせの担当マネージャーさんが急病になってしまい、尚且つ代わりをつとめてくれる手空きがいない。 そこで加奈子のマネージャーとして何度か手伝った実績もあり、あやせのお知り合いでもある俺に白羽の矢が立ったということらしい。 当然二つ返事でOKした俺。 不謹慎ではあるが急病になってくれたあやせのマネージャーさんにはすっげえ感謝だ! いぃぃぃやっほぉぉおぉぉおぉ! あやせたんとお泊りだっぜえええ! アルバイト代も出てあやせと一泊。こんなイベントまたと無いぜってなもんよ。 事務所の人にこまごまとあやせのスケジュールを聞いて、んで今日の朝ロケバスに揺られてやって来て、こうして撮影を見守っていたというわけさ。 ――さて話を現在に戻そう。 「お兄さん、なんだか今日はやけに顔がニヤついていませんか?」 「そう見えるのはおまえが可愛いからさ☆」 「き、キモ! 気持ち悪いです! ふざけたことばかり言っていると許しませんよ!?」 手を交差させて俺の発言に心底引いているあやせ。 気持ち悪いってひでえな、いや自覚はしてるんだけど今の俺はそんなことではたいした精神ダメージを受けないハイテンション状態。 「じゃあどう言えば良かったんだ?」 「どうもしなくていいです! 喋らないで下さい、話しかけないで下さい!」 「それより、あやせ。体冷やさないようにタオルで汗拭きとっておけよ。山だとすぐ気温下がってくんだし」 「くぅぅ、喋らないでって言ってるのに! 言われなくてもちゃんと分かってます」 「はいタオル」 加奈子相手よりも十倍は近い手際良さで、すかさず用意していたタオルを手渡す。 「………………どうもです」 と、俺とあやせが(誰がなんと言おうと)睦まじく話していると女のマネージャーさんがやってきた。 あやせとは違う事務所の人だ。 今回は別の事務所のモデルも参加していて、このマネージャーさんがまとめ役をやってくれていたりする。 何度か仕事を共にした事があるんだろう。あやせとも知り合いなようでバスの中でも楽しげに話をしていたよ。 「あやせちゃん、お兄さんと仲がいいのね」 「な!? 仲なんて良くないですよ、すーぐ変なこと言うし、スケベだし変態だし!」 「あらぁそう? でもお兄さんと話しているときのあやせちゃん、とってもイキイキしてて楽しそうだけどぉ」 「楽しくなんてありません。今だって気持ち悪いこと言われてわたし怒ってたんですから」 「あらあら。お兄さん、妹が可愛いからってイケないことしちゃダ~メよぉ?」 「いやー可愛いあやせを見ているとついセクハラをしてしまうのが俺のクセって言うんですか? ライフワークみたいな――いっでぇえぇ!?」 「ふざけたこと言ってるんじゃねえですよ、バカお兄さん? そろそろ温厚なわたしでも本気で怒りますよ?」 ニコニコと笑いながら脇腹をおもいっきしつねくってきて、どこが温厚!? 「あやせ、おまえけっこう凶暴な? お兄ちゃんは感心しないぞ」 「誰のせいで凶暴になってるんですか、誰のせいで!」 「あはは、ほんと妬けちゃうくらい仲がいいわね」 俺と『妹のあやせ』の姿をみてマネージャーさんは楽しそうに笑う。 そうなんだ、ここでは俺とあやせは兄妹ということで通している。 ある程度顔見知りが集まるこの撮影スタッフにいきなり俺という異物が入り込む形を取る上で、あやせの兄として通したほうが皆もなんとなく安心するだろうという配慮からだった。 俺はそんなの気にもしないんだが、何しろ撮影チームには女性が多い。俺以外にはスタッフ二人が男性で後はカメラマンも含めて女性という構成だ。モデルの娘たちからすれば見知らぬ野郎がいたんじゃ撮影に集中出来ないってのもあんのかもね? まあ理由はどうあれ今の俺はあやせのお兄ちゃん。俺たち兄妹が不仲なんて思われてたらそれこそ雰囲気悪くなるよな。 ちゃんとあやせとの兄妹仲が良好だと盛大にアピールしとかねえと! 「ええ、俺とあやせは小さい頃から今でもお風呂入るくらいの仲ですから!」 「ふざけんなセクハラやろうぉぉぉおおぉ! 土に還れぇぇええぇぇぇえ――――ッ!」 両手を組んでハンマーのように後頭部へ打ち下ろされて俺は土の味を味わわされた。 うう、良かれと思ってやったことなのに。 「ぐふぅ。すみませんごめんなさい、あやせさん。俺が悪かったです……」 「はぁはぁ……。フン、知りません!」 「ぷっ。ふふふ、ほんと仲良しさんね。あら、忘れるところだったわ。はいお兄さん、これ」 と、土に埋まった俺を助け起こしながらマネージャーさんは一枚の紙切れを渡してくる。 「これはなんすか?」 「今日泊まる場所の部屋割りね、ひとつのコテージで二人寝泊りすることになっているから」 ふ~ん。 コテージといってもピンきりだが、ここには小さなほったて小屋みたいなものがいくつか建てられておりキャンプ場みてえな感じだ。 それでも新しく建てられたばかりなのか、綺麗だしテントよりはよっぽど豪勢で、小屋の中にはバスルームからトイレ、キッチン。ネット回線まで用意されており、都会もんのお金を拝領するための設備が整っている。 こんな所まできて、自然を満喫しねえのもどうかとも思うが、ケチつけるより素直に楽しんだ方が楽しいのかもな。 で、俺の部屋はどこだ? 「え~とカメラマンさんはここで、モデルの娘はここで~」 念のために何かあったらいかんと俺は上からスタッフの人がどの部屋なのかを順番に目でなぞっていく。 顔を寄せてあやせが紙上に目を落とし「えっと、わたしの部屋どこですか?」と聞いてきた。 「ん~? えと、どこだろ。あ、あったあった」 「あ、はじっこのとこですね」 一番下にあやせの名前。 一部屋二人ずつで、あやせの名前の隣を確認してみると、 「…………俺?」 「へ? へぇぇええええ――――!? ちょ、ちょっと! どういうことですかお兄さん!?」 「ぐえ~~。首締めるなって! ど、どういうことっすかマネージャーさん?」 「同姓で割り振っていったらどうしても男性と女性で一人余っちゃうのぉ。でも良かったわぁ、あやせちゃんたちなら兄妹だしそんなこと気にしなくて良いものね」 驚いている俺とあやせを気にもとめないようにケロッとしているマネージャーさん。 「こ、こ、困ります! この人と一緒だなんて! イ――イ、イヤですわたし!」 顔を紅潮させて食って掛かるあやせにマネージャーさんは相変わらず気にしていない様子で。 「大丈夫よぉ、別に同じ布団に身を寄せて包まれ~なんて言ってないんだし。ちゃんとベッドはふたぁつあるらしいから」 「そ、そういう問題じゃなくてですね!?」 「兄妹なんだから気にしない気にしない。うちにも一人兄がいるけど、一緒の部屋で寝るくらいしょっちゅうよ。それじゃ、後で夕食だからそれまで自由に過ごしててねぇ」 あやせの全力の猛抗議を柳に風と受け流し、決まっちゃってることだからと告げるとマネージャーさんはさっさと行ってしまった。 言うこときかせるための有無を言わせない態度、さすがはプロといった感じがする。 というか単にあの人、天然ぽくね? 「そんなぁぁ~~~~」 俺がマネージャーさんの背中を見る横で、あやせはへたりと腰を落とし目の端に涙をためていた。 ――午後十時。 夕食を食べ終えてミーティングを済ませた後、明日に備えて今日はさっさと寝ようということでそれぞれのコテージへと戻っていた。 「おーい、あやせ。風呂沸かしたぞ」 「ち、近づかないでください変態!」 「変態っておまえな……。いきなりベッドルームに引きこもって鍵まで閉めやがって、ひどくない?」 「いいえ! あなたみたいなスケベ野郎にはこれでも足りません!」 くそ~、さんざん言いやがるなこのアマ。 さすがにここまで拒絶されると悲しくなってくるぜ。 あやせの気持ちも分からんでもないけどよ、いきなり二人して一つ屋根の下に押し込まれてんだから潔癖なコイツとしてはイヤで仕方無いってところか? 元から俺のことを変態呼ばわりしているんだから、なおのこと心理状態は猛獣の檻に入れられた小動物の気分なのかもしれない。 「いいから風呂くらい入っとけよ」 「あなたがそばにいるのに、そんな危険行為するわけないでしょ! この痴漢、スケベ、ど変態ッ! 通報します!」 「してもねえのに、冤罪ふっかけてくんじゃねえ!」 可愛い女の子と一晩なんてかなりおいしいシチュエーションだが、こうまでヒステリックに騒がれると、おかしな気分なんて起きてこない。 やれやれだ。明日の撮影だってあるんだし、コイツもこんな調子じゃ良く眠れねえだろう。 「あやせ、俺がいるから駄目なのは分かった。一時間くらい外でも散歩してくっから、その間に湯船つからんくてもシャワーくらい浴びておけよ」 俺はつとめて素っ気のない口調で扉の向こう側に声をかけると外へ出て行った。 道沿いを歩きながら少し惜しいことしたかなとも考える。 でもよ、年下の子を不安がらせてしまうようなことは避けたい。 それに俺は今、あやせの仕事のマネージャーでもある。アルバイト代貰ってる分きっちりとあやせが満足して仕事に集中できるようにしなきゃなんねえよな。 いつものおふざけは隅に追いやって、あいつが困ってるんならと実はミーティングのときにも、部屋割り渡してきたマネージャーさんにどうにかしてくれってのは言ったんだけどさ。 他のコテージは埋まっちまってるし、人数も合わないから我慢してとニベも無く言われてしまった。 しょうがねえから俺は車で寝ると言おうとしたら、あやせは眉をひそめてはいたものの、『変なことしたら即通報します』と折れてくれた。 さすがに俺一人を車内へ追放するのには気が引けたのか、兄妹という設定上から変に意識しているようなことを悟られたくなかったのか、本心は分からない。 でもなんとなくだけどさ、たぶん前者だろうぜ。 いろいろ無茶な相談ごとを聞いたりしたこともあったが、あいつの言動を制御する根幹は相手を思いやってのことが多い。 俺のことはナメてやがってすぐに変態呼ばわりしてくるが、根は優しい女の子なんだよな、やっぱ。 「へっ。似たもん同士だよほんと」 ――適当にぶらぶらと歩いて、頃合を見計うと俺はコテージへと戻ってきた。 置かれているシングルチェアに腰掛けると、ガチャとベッドルームのドアの隙間からあやせが顔をのぞかせた。 「あ……。お兄さん、お風呂頂きました。……ありがとうございます」 「おう、そか」 「はい。…………それと、さっきはちょっとだけ言い過ぎました。ごめんなさい」 さっきってのはいつのことだろう? 「なんのことだ?」 「何って……。さっきわたしお兄さんに痴漢とか言っちゃって」 「ああー。んなもんいちいち気にしねえって」 「そ、そうですか?」 「普段からおまえにゃ変態だのスケベだのさんざん言われ慣れてるからなー」 「む。お兄さんがいつもわたしに変なこと言ってくるからですっ」 「仕方がねえよ。おまえと会っているとなんか胸がドキドキしてくんだよね、俺ってば」 「ほーらまたそういうことを!」 っと、また調子に乗っちまったかな。 あやせはぷぅ~とリスのように頬を膨らませて睨まれてしまった。(←可愛い) 「悪かったよ。自重することにする」 「もう、いっつも冗談ばっかり。――そんなだからお兄さんがどう考えてるか分か………な………で…か」 なにやらボリュームが下がっていって後半が聞き取れなかったが。 ま、いっか。 話を変えることにして「あやせ、もう寝るんだろうけどさ――」と言うと途端にあやせは顔を真っ赤にしだすが、「俺、この椅子で寝るから。なんかあったら起こせ」そう続けると、 「え? あ、はい。分かりました」と素直に首肯した。 「もしかしてエッチなことでも考えたか?」 「バッ、バカ! 死んでください!」 バタンとドアが勢いよく閉まってしまった。 いかん、最後のは余計なこと過ぎたな。どうもあやせの顔見てるとついつい楽しくて軽口叩いちまうな俺。 椅子に腰を深く沈めてため息をする。固いが寝れないことはねえか。 と、閉まったドアがまた開いてあやせが出てきた。 ジャージとティーシャツというラフなスタイルだ。見慣れてない格好だったのでドキッと心臓の音が鳴ってしまう。 「どうしたんだ?」 「ちょっと喉が渇いたのでお茶買ってきます」 ツーンとすげなく答えるあやせ。 「あーしまった。用意すんの忘れてた。すまん」 「別にこれくらいのことは自分の管理内なので、気にしなくていいですよ」 「でもさ。――あ、俺が買ってきてやるよ。さっき最後に変なこと言ったお詫びも込めて」 「な、なんのことか知りません! 一人でいけますから。お兄さんはゆっくりしていてください」 そう言ってあやせはコテージを出て行った。 が、一分も経たないうちに戻ってくる。 「早ッ! つーか買ってこなかったのか?」 「………………その、道がすごく真っ暗で」 少し顔が蒼白くなっちまってるよ。 怖かったんだろうな、さっき歩いてて俺も思ったけど山の中だから外灯もほとんど無く建物から漏れる明かりなんてものも無い。俺たちが住んでいる街とは根本的に違う場所だ。 「分かった。俺が買ってくっから待ってな」 「で、でも!」 「いいからいいから、お茶で良いんだよな」 「ううぅぅ~~~~~~。……わ、わたしも行きますっ」 独りで待ってるのが怖いのかねぇ。 「別に怖がってなんていませんからね? 変な勘違いしないで下さい」 「はいはい」 「ほ、ほんとなんだから!」 どうやら俺に『怖がってんだなコイツ』と思われてるのがカンにでも触ったんだろうぜ。 あやせもついて来ると言い出して、俺たち二人は少し離れて設置されている自動販売機まで暗い夜道を歩き始めた。 「………………」 「………………」 じゃり、じゃり、と土音が鳴る道を歩いているが、あやせは黙りこくってしゃべってこない。 気まずい。今まであやせといてこんな空気になったことってねえよな。 「道、暗いな」 「……そうですね」 「足元気をつけろよ」 「……はい」 「こういうとこの自販機って普通のところより高いよな」 「…………」 う~~~~~~、さっきからつまんねえことしか言えてねえぞ? あやせは顔を俯き加減にして俺の少し後ろをついてくる。 歩くのが早すぎなのかも知れないと、微妙に歩幅を縮めてもあやせはそれに合わせるように自分も歩幅を縮めるので位置は変わらず。 どゆこと!? 俺の横歩くのイヤなの!? 俺泣いちゃうよ? そう思っていたら心を読んだようにあやせが心境を聞かせてくれた。 「こんなに暗いところ初めてなので……」 ああ、やっぱ怖いってことか。 独りで待っているのも、こうして暗い道を歩くのも怖いから、付かず離れず俺にバカにされないように少し後ろを歩いてるってことね。 「……ぷっ」 「な、なにがおかしいんですか?」 「いやー、なんでもねえよ」 「嘘。絶対わたしのことバカにしてます。」 「バカにはしてねえって。――でも、怖いものくらい誰にもあんだし隠す必要は無いと思うぜ?」 「隠してなんかいません! 怖くなんかも」 「じゃあ、俺少し先いってようかな」 「え!? ちょ、ちょっと待って! 待ってくださいお兄さん!」 速度を速めて距離を開けると、あやせは慌てて俺に追いすがり服の裾を掴んできた。 「やっぱ怖いんじゃねえか」 「イジワル! お兄さんなんてキライです!」 「わりぃ。でもさ、そんな怖がらなくてもいいだろ?」 「え?」 「とりあえず明日帰るまではマネージャーとして俺がついててやるからさ」 「……っ!? な、なんですかそれ? 全然かっこよくないです、キモチワルイです! 変態」 「気持ち悪いって……。相変わらずひでえなオマエ」 「フン。……………………マネージャーとしてですか……」 「あん? 声小さくて聞こえんかったわ」 「……っ。お兄さんのバカって言ったんです!」 なんだそりゃ。 そうこうする内にぽつんと置かれている自動販売機までやってくる。 ペットボトルのお茶を買って、さて戻ろうとしたとき。 「きゃ! お、おおおお兄さん!?」 「え!?」 自販機のそばの茂みが揺れてがさがさと音がしてくる。 さすがに俺もちょっとびびる。だって暗い草むらから何か近づいてきてんだよ! 動物か? 頭をよぎるのはイノシシとか熊とかおっかねえものばかり。 怖えよ、あやせのこと笑えねえぇぇ!? それでもあやせの手を掴んで背中に隠し、即逃げの体勢で音が鳴る方を凝視する。 「――――――……………ッ!」 「…………あ」 俺たちの前に出てきたのは獰猛な動物ではなかった。 体長四十センチくらいの、見たことはないけど都会にも棲んでいたりするなかなか可愛い顔立ちの、 「タ、タヌキ……ですね」 「みたいだな」 は~~、驚かせやがって、このポンポコ野郎! 現れたタヌキはトテトテと近寄ってきてあやせの足元で鼻をスンスンならしている。 「か、可愛い――ッ!」 「餌付けでもされてんのか? 随分人懐っこいな」 「かもしれませんね。きゃん、くすぐったいよ。ゴメンね、わたし食べ物持ってないんだ」 膝を折ってタヌキの頭をスリスリしているあやせはさっきまで怖がっていたのはどこへやらであどけない笑顔を見せてくる。 ……やっぱ可愛いなぁ、あやせたん。 タヌキ、よくやったぞ。俺も褒美に頭を撫でてやろう。 「ギャウッ!」 「うおっ! こいつ俺にはその態度かよ!?」 「くっ、あはははは。お兄さんおっかしい。ひょっとして怖いんですかぁ~?」 「ケッ。怖くねえよ! ちょっとびびっただけだっつうの」 「はいはい。怖いものくらい誰にもありますから隠す必要なんてありませんよー」 あやせは得意そうにさっきの俺の言葉を言い返してきた。 チッ。藪からタヌキって諺が無いか帰ったら辞書でも引いてみよう。 エサが貰えないと知ったのかタヌキはさっさと俺たちにしっぽを見せていなくなってしまった。 「戻るか」 「そうですね」 タヌキを見送った俺たちは自分たちのロッジへともと来た道を歩き出す。 「さっきより道が明るく見えませんか?」 「そういえばそうだな。――あぁ、上見てみろよあやせ」 俺が指を空へと向けて指し示すと、あやせは顔をあげて感嘆の声を漏らした。 「あ、月が出てきたんですね。うわぁ~綺麗」 「雲に隠れてたんだ。にしても街じゃあまり分からねえけど、月の明かりってすげえのな」 「さっきまで暗かったのに、道が光っているみたい」 「目が慣れてきたってのもあるかもな。これで怖くなくなったんじゃないか?」 「もう言わないでください! 自分だってさっきタヌキに驚いてたくせに」 「あー知らね知らね」 「ふふふ~ん、そんなこといってもダメですよ? わたしちゃんと覚えてるんだから」 軽口を叩き合いながら俺たちはロッジへと戻ってきた。 「携帯持って行けば良かったなぁ。写真撮りたかった」 「はは、明日も少し時間あるからそんときにちょっと探してみるか?」 「ですね! はぁ~楽しみです」 あやせは早くも明日のタヌキとの再開に心を向けているみてえだ。 子供っぽいなと思いつつもその顔を見ながら俺は嬉しいと思ったよ。この様子だと明日もあやせは気持良く仕事が出来そうだからな。 「――そうだ。俺、椅子で寝るけどさ、毛布ちょっと持ってっていいか?」 「はい、どうぞ」 ベッドルームに戻っていくあやせへ声をかけて部屋に入ると俺は使われていないベッドから毛布を取ろうとした。 そこで見慣れたものを発見する。 「これって防犯ブザーじゃねえか。おまえこんなとこまで持ってきてんのかよ」 手にとって俺に何度か使われたブザーを見ると、あやせが急に驚きの声をあげた。 「あ! そ、それは――」 あん? 何を驚いてるんだあやせは。 何の変哲もない丸っこい形の防犯ブザー。くるりと裏返しにしてみると、 「…………え? あ、あれ? 俺の……写真?」 「ダ、ダメ――ッ! み、見ないでください!」 俺が防犯ブザーの裏に貼られた自分の写真を目にするのと同時に、あやせが俺へと勢い込んで手を伸ばしてきた。 あやせはまるで隠していたものを必死に見られまいとするように慌てていて。 「おわっ、ちょ!?」 「か、返して! 返してください!」 もつれ合う足。 俺たちの体勢は崩れ、ボスンとベッドの上へと体を重なり合わせた。 時間が止まる。 「………………」 「………………」 俺の顔の上にはあやせの顔。 その表情は不安なのか泣きそうなのか眉根を寄せて目元を潤ませている。さっきまでの楽しく会話出来ていた空気も消え、代わりに張り詰めたような静寂が広がっていく。 一分か二分か。見つめ合ったままだったが、俺は意を決して口を開いた。 「…………あやせ。えと、なんで俺の……写真?」 俺の問いに顔を歪めて、何かを耐えているような表情を一瞬見せた後、あやせは俺の顔の横へと頭を沈め、両手で俺の肩を抱いた。 「………………そんなの、そんなの決まってるじゃないですか」 あやせは搾り出すように俺の耳に心を吐露し始めた。 「お兄さんは……。あまり親しく無かった頃も、わたしの相談ごとちゃんと聞いてくれて。色々からかって、スケベなことばっかり言ってきたりするけど。 ……でも、ちゃんと最後にはわたしを嬉しくさせてくれます。――今日だって、マネージャーの仕事してくれて、さっきも背中で守ってくれて。わたしすごく嬉しかったんですよ?」 突然の告白に俺は心臓が急停止するかと思った。 だってよ、 「てっきりおまえには嫌われてるもんだと思ってた」 「キライなら、最初からお兄さんに相談ごとなんて頼むわけないです。今回のことだって。……どうしてそんなに鈍いんですか」 「いつも蹴り飛ばされていたから……かな?」 「バカ。お兄さんがわたしを困らせるようなこと言うからです」 「すまん」 「………………それ、どういう意味でですか?」 肩に置かれた手の力が強くなったのを感じた。体も震えている。 それが、緊張からきているもんだってのはすぐに分かったよ。服を通して心臓の大きな音も聞こえてくるしな。鈍感な俺でもさすがに気付く。 「おまえの気持ちに『すまん』なんて俺が言うわけねえだろ」 俺はあやせの顔をあげさせて正面で向き合い、あやせの秘めていた想いに答えた。 「マジ嬉しい。あやせ、ありがとな」 「…………お兄さん」 「ただ、突然でびっくりしてるってのもある。あやせ、俺――」 「いいです、その先は言わなくても。分かってますから」 そう言うとあやせは俺に顔を寄せてきて、 「……ちゅ。……ん、んん」 「あ、あやせ。……そんなことされたら」 「……ん、はぁ。されたらどうするんですか?」 「こうする」 両腕であやせの背を掴んで俺はくるりと体勢を入れ替えあやせをベッドの下に組み敷いた。 「……あやせ」 「……お兄さん」 気持ちは分かったんだ。あやせは俺に行為でも示した。これからすることに許可を求めるようなくだらないことはしない。 俺は静かに服を脱ぎ、次いであやせの服を脱がせた。 生まれたままの姿のあやせは大人として成熟してきている過程の肢体を俺に魅せてくる。 「は、恥ずかしいですお兄さん」 「俺だってちょっと恥ずかしいって」 「お兄さんはスケベだから平気なんじゃないですか? で、電気を消してください」 「ん、ああ」 部屋の横にスイッチをオフにすると部屋は暗闇に閉ざされた。 「あやせの体が見れないのは残念だな」 「恥ずかしいこと言わないで。お兄さんはやっぱり変態です」 「変態ってほどじゃねえとは思うが。ちぇ、減らず口だな」 俺は再びあやせの体を抱きしめ唇を重ねた。 「ちゅ、くちゅ……ん、はぁ。お兄さんの口の中、あたたかい……です」 「おまえの舌も熱い。口がヤケドしそうだ」 「ん、ふぁぁ……ちゅぷ、れろ……くちゅる、ちゅくちゅく……」 あやせの舌を吸い取るように味わうと途端に唾液が湧き出し口内を満たした。 「あむ、……お兄さんの、飲んで。ちゅ、ちゅぷりゅる……く、ん……こくこく」 俺のものを嚥下していく喉の音が重ねあわせている口伝いに振動となって脳を揺さぶって、いっそう俺は体が熱くなってきた。 少し体を曲げ、あやせの胸へと顔を埋める。 「ひゃ……お兄さん、そんな……あっ、んんぅ」 「胸、敏感なんだな」 「やだ、言わないで……ください」 胸の先端は早くも固くなっているようだ。 柔らかい乳房とともに口に含むとあやせは俺の頭尾を掴んで嬌声をあげた。 「やっ、あん……ひぅ、お兄さんやめっ……舐めるなんて……あっ、不潔です」 「不潔なわけねえって」 「んっんん……く、あん。そんな……ゃん、お兄さんの舌がぁ……あふ……わたしの、あっ、んん……吸ってぇ」 官能に身を包まれたあやせは頭上で甘い声を出している。 あやせのこんな声を聴いているだけでも、俺かなりヤバイかも。 さえずりに引き寄せられるようにもう一度俺はあやせにキスを交わし、手をあやせの下半身、少し膨らんでいる丘に手を伸ばす。 「ゃあ、あっ……あん……はぁ、ん、ふぅん……」 くちゅとした湿った感触。丘の谷間からは蜜のようにとろみのある愛液が染み出してきていた。 指を二本揃え、谷間全体を撫でさする。小さな突起部を指の腹でくるくると円を描くように愛撫して弱い力で摘むと、あやせは押し寄せてきている快感に必死に耐えているだろうか。俺の首にしがみついてくる。 「こんなのダメです、わたし、わたし……あ、ゃん……く、ふぁ、あっあっん」 「あやせ、俺のも触ってくれ」 あやせの手を取り、そっと俺の股間へと持っていくと、びくっと怯えたように手が跳ねたが、やがておそるおそる陰茎に指を添わせて拙く愛撫を始めてくれた。 「お兄さんのここ、とても熱いです。……はぁはぁ、それに固くて、なんだかぬるぬるしてて」 「あやせのココと同じだな」 「ひゃん……言わないでください、恥ずかしい。……ん、あぁ。ど、どうですか気持ち良いですか?」 「ああ、超良い。その先っぽの方とか撫でられると……くっ」 単調な指使いだが、濡れてきている亀頭を包んでにちゅにちゅと掌で擦り上げられていくと、電気が走るように腰から背骨を通って全身へと快感が流れてくる。 キスをして舌を絡ませ、お互いに吐く息を相手の口内に受け止めながら手淫を続けていると、むくむくとあやせの中へと入りたいという欲望が急速に肥大していく。 あやせの口内から舌を戻し、俺はあやせに膨れ上がった欲望を口にする。 「おまえの中に挿入するぞ」 「は、はい! わたし、その、頑張ります」 頑張りますって……。うん、よろしくお願いします……。 思いもよらず元気の良い返事に俺は吹き出しそうになるのを堪えながら、あやせの秘裂の中心にある男を受け入れるための穴へと陰茎を近づけた。 薄暗い闇の中で毛布を羽織ったままなので位置がなかなか定まらない。 「この辺か?」 「も、もう少し下だと思います。――あ、その、その辺かな? は、はい。そこで大丈夫です!」 またしても元気な回答。今度はこらえ切れず、 「ぶっ。くくく」 「え? わたし変なこと言いました!? お、おかしかったですか?」 「いや、すまん。なんか必死に教えてくれてんのが可愛かったからさ」 俺がそう言うとあやせは俺の下から口を尖らせてそっぽを向いてしまった。 暗いからあんま分かんねえけど、たぶん耳まで真っ赤になっちまっているんだろう 「ひどいです、お兄さん! こんなときにからかうなんて」 「わ、悪かった! 許してくれって。マジでおまえが可愛くて、ついな」 「も、もう誤魔化されません。許さないです」 「そこをなんとか」 「じゃ、じゃあ。あの……優しくしてくれたら、許してあげる……かも、です」 ……こいつ、分かってて言ってないか? そんな切なそうな声出されたら、今にも全力で抱きしめたくなるって言うのに。優しくなんて、そうするつもりではいるけどさ、今の一言は俺にとってかなり拷問に近いぞ? 俺はあやせの台詞で猛ってしまっている欲望をなんとか抑制しながら、膣奥へと自分のモノを侵入させていった。 「あ、くっ……あっは! ん、んんんぅぅ!?」 まだ少し挿入しただけだが、あやせは俺の背中に抱きついて、挿入されていく陰茎から与えられる痛みに耐えている。 長く苦しませないようにと一気に俺は残りをあやせの膣へと挿し込む。 「ひぃぅッ!? ぁ、はぁ……はぁ」 「全部、挿入った。……すまん、かえって痛がらせちまったかも」 「……ん、謝らないでください。わたし、お兄さんと、あっ、……はぁはぁ……嬉しいですから」 「俺もだ、あやせ」 安心させてやるように頭を撫でてあやせを落ち着かせると、腕に頬をこすり付けてきて嬉しそうに笑む。 頬が触れている腕に染み入るような温かさと愛しさが伝わってくるのを感じた。 「動いても……大丈夫です、から」 まだ少し苦しそうにしているようだし、無理しなくても良いと思うんだが。 俺が動かずに頭を撫で続けるとあやせはその手を取り、指をからめてこんなことを言った。 「お兄さんに、気持ちよくなってもらいたいです」 「ぐ……。それじゃ激しすぎたりしたら言えよ」 だから、どうしてそこまで可愛いこと言うかなコイツ。あやせ、今の台詞は卑怯すぎだぞ? かけられた言葉に抑えられなくなり俺は抽送を開始し始めた。 「ん……んぁ、はぁ……あっ」 腰を引いてまた押し戻す。それだけの動きだが確実にそれは俺とあやせへ快感を伝えてくる。 俺のモノへ膣肉の一つ一つのヒダが吸い付き、じゅわぁと潤滑を良くするように愛液が溢れだす。 「くっ、あっあん……お兄……さんがわたしの中で、はぁ、動いて、る」 狭い膣内をごりごりとかき回し、自分の陰茎とあやせの膣内を摩擦していくとしびれるような感覚に陥っていった。 あやせも徐々に甘い声を漏らし始め、腰を前後させるたびに荒い息づかいをしながら頭を振って快感を受け止めているようだ。 じゅぷ、ちゅぱん、ちゅぱん。下半身から響いてくる卑猥な水音も俺たちの興奮に拍車をかけている。 「あやせ、気持ち良い。おまえの中すげえ気持ち良いからな、俺」 「……言わないで、あっん、ください。恥ずかしい……あっあっ! んっ……んん」 「気持ち良いのは気持ち良いんだから仕方ねえだろ」 「ば、ばかぁ。お兄さんなんて、やっ、あん……スケベな変態野郎です」 「そうかもしれねえ。んじゃもっとスケベになるぞ」 腰の動きを更に早くして、俺はあやせから貰う快感を強めた。 それに共鳴するようにあやせも声のトーンをあげて、身をくねらせ、握っている手に力を込めて痛いほどに握り締めてきた。 「きゃっ……お、お兄さん激し……はっ、んっんんん、あっあぁぁ。わ、わたし変です。ふわふわして体が……ひぃぅ、くぅん……浮いて、浮いてきちゃう」 「く……そろそろイく! あやせ、イくぞ!」 「はぃ、きてください。気持ちよくなってくだ……あぁあぁぁ、はぁはぁぁ……わたしも、わたしもお兄さんと!」 「イくッ! あやせ――ッ!」 限界近くまで抽送をし、絶頂の瞬間にあやせの膣から陰茎をずるりと抜くと俺はあやせのお腹へと精液を振りまいた。 「くぅっ、あっあぁぁ! わたし、わたしぃぃ! ん、くっんんん~~~~!?」 俺が精液を出すのと同時にあやせの体は痙攣し快楽の絶頂を極めたのだろう。痛いくらいに俺へとしがみついて、荒い息を吐く。 「はぁ……はぁ……。お兄さんの熱い、です。お腹熱くて……ん、んぁ……お兄さんと抱き合って、気持ち良いです」 「あやせ……」 俺は喜びを素直に言葉にしてくれているあやせに口付けを交わした。 自分も同じだと伝えるように。 ――行為の後、俺たちはしばらく余韻にひたっていた。 あやせはベッドの横で座り込んで、窓の外から聴こえてくる虫の音に耳を澄ませているようだ。 月の明かりが窓から入って、あやせの顔がはっきりと分かる。 横顔は柔らかく穏やかで、俺はそれに見とれている。 こいつってやっぱ綺麗だよな――。 初めに会ったときは素直なお人良しで好印象。次に再会したときは、かなり怖えところもあるって知ってびびったっけ。 だけど根底には誰よりも優しい慈愛が満ちていることがすぐに分かった。 相談ごとされているときも、それは誰かの為ってのが多くてさ。 俺は辟易しながらも、実はその優しさに惹かれて相談に乗っていたのかもしれない。 「お兄さん」 窓の外を見ていたあやせが声をかけてきた。 「わたし、お兄さんのこと見ていたけど、こうなるなんて思ってもいませんでした。だから、不思議なんです。今はこうしているのも夢みたいで」 「そっか」 俺はどう言っていいのか分からず、気恥ずかしさにぽりぽりと頬を掻くばかり。 「…………お兄さん。街に帰ったら、もうわたしのマネージャーじゃなくなっちゃうんですね」 あやせは俯いて寂しそうに言う。 お、これなら分かる、簡単だ。 こんな顔しているコイツに俺がかける言葉なんて決まってる。 ただ、どうやらいつものように俺はあやせに調子に乗るクセが出てきたみたいで。 「あやせ。おまえってさ、俺に相談ごと頼んでくることあるだろ?」 「え? は、はい」 「たまには俺からの相談も聞いてくれよ」 「それはもちろん。良いですけど?」 話が変わったことに戸惑いつつもあやせは俺の相談ごとに乗ってくれると了承した。 んじゃ、遠慮なく言うかね。 「それじゃあ早速だけどさ。――この撮影終わったら、次に二人でどこへ行こうか、決めとこうぜ?」 誰かのための相談ごとじゃなく、俺とあやせ二人のための相談ごと。 「聞いてくれるんだろ?」 「~~~~っ。……かっこつけて、キモいです。お兄さんには似合ってないです!」 チッ。頑張ったんだぞ、そんな言わなくてもいいじゃねえかよ。 ふてくされながら俺は見つめる。 窓から入る月明り―― その柔らかい光に照らされていた、言葉と一致していないあやせの顔を。
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http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1289713269/61-64 夏も過ぎたとある日。 真っ青な秋晴れの空の下、俺は―――怒られていた。 「遅い!あたし30分も待ってんだけど、一体どういう事なワケ!?」 腕時計を指さしながら、桐乃が俺を睨みつけてくる。 どういう事ってそれは俺の台詞だろう。約束の30分も前に待ち合わせ場所に着いたってのにいうのにこの仕打だぜ? 催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…。 「いや、まだ時間前だろ?」 「全然違う、分かってない。あたしを待たせたこと自体がダメだって言ってんの」 「なんだよそりゃ!?お前が勝手に早く来過ぎたんじゃんかよ。てかさ、そもそもなんで待ち合わせしなきゃならなかったんだ? 一緒に家でりゃそれで済む話だろうが」 「ハァ?あんたって本当に馬鹿じゃん。こういうのにはムードってもんがあるの。そんなのも分からないの?」 とまあこれまた馬鹿にしたような顔である。まったくもって腹が立つったらありゃしない。 そもそも、どう考えても怒られる理由がないじゃねえか。時間前にちゃんと来てるし、俺としては当然の事言っただけだぞ。 よし、ここは一言ビシッと言ってやらねばならんな。 「悪かったよ。今度からは気をつける」 「うん。分かればヨシ」 頷きと共に、桐乃の表情が柔らかな物へと戻った。どうやら納得してくれたらしい。 ……言い訳じゃないけど、情けなくなんかこれっぽちも無いからね。 こんな所で喧嘩したってしょうがないし。それに女子連中がムードを好むのってのも分かるしさ。 ま、この前やったエロゲーのお陰だぜ、なんて言ったら殴られるから言わないけど。 「じゃあ行くか」 「そだね」 目で頷き合って、俺達は歩き出す。 すっかり機嫌を直した桐乃が、顔を赤く染め、腕を絡ませてくる。そして 「あのさ、今回は期待してるからね?きょーすけっ!」 さて、今までのやりとりで大体分かったかもしれないが、俺たちは今日、デートなんだ。 ただし、これはいつかのような偽装じゃない。 あの激動の夏休みのあの日。俺は桐乃の気持ちを知り、そしてそれに向き合い、自分なりに一つの結論を出した。 それを選んだことは別に後悔なんかしていないし、これからもする事はないだろう。それくらい真剣に考え、納得した事だ。 そしてその結果―――俺たちはこうなった。 といっても、別に思ってるような危険で妖しい香りなんてのは全然ないんだぞ。 相変わらずキモいだのウザイだのはしょっちゅう言われるし、さっきみたいにムカツク事だらけだしよ。 傍から見れば、俺達の関係なんざ以前と何一つ、これっぽちも変わってないように見えるだろうぜ。 だけどまあ…それでもさ。 「お、おい。あんまくっつくなよ。また知り合いにでも見られたら…」 「いいじゃんそんなの。それに、あたしがこうしたいんだからコレでいいの」 「…し、仕方ねーな」 それでもこいつのこの顔見たら、そんなちっぽけな事はどうでもいいかって思えるんだ。 この笑顔をずっと守りたいし、見ていたい。それが俺が選択した答えだからな。 もっとも、次お袋にこんな状況知られたら、その時は半殺しにされるかもしれないけど。 * * 「あれー?桐乃ちゃん?」 10秒で知り合いに出会ってしまったぜ。俺\(^o^)/オワタ 背後から聞こえた声に、冷や汗が背中を伝い、動悸が激しくなる。 後悔はしていないと言ったが、それとこれとは話が別だ。誰だって死にたくはない。 だがふと俺は思い出す。そうだ、この声は――― 「あれー?せなちーじゃん」 「ふぅ…お前かよ」 「やっぱり桐乃ちゃんと先輩だ!わあ、偶然ですね!」 赤城瀬奈。俺の友人の赤城浩平の妹であり、ゲー研の後輩。さらになにかにつけて俺をホモにしたがる困った腐女子な訳だが、 こいつはこいつで兄貴と超シスコン・ブラコンの関係だったりする。 という訳で、その点では幸いだった。現に腕を組んでる俺たちを見ても、瀬奈のヤツは別に何とも思っちゃいない様子である。 多分こいつらもこんな事やってるんだろうな。つーかそれってどうなのよ?クローゼットの件だって結局笑って許しちゃったろ。 まあ俺がどうこう言ってもしょうがないけどさあ。 「仲良くどうしたんですか?あ、まさか二人もデートですか?」 「うん。まーね」 瀬奈の問いかけに隠すこと無く桐乃がぶっちゃける。 サラッと言ったけど、ちょっとははぐらかしたりして欲しかった。もし他の誰かに聞かれたらと思うとこっちは気が気じゃないんだぜ。 「せなちーは何してんの?二人『も』ってひょっとして?」 「えへへ。これからお兄ちゃんと映画に行くんだ」 嬉しそうに笑顔で瀬奈が答える。 ほう、映画ねえ。あいつが居ないとこ見ると、先にいってチケットでも買って待ってるんだろうな。 しかしあの野郎もほんと大概だな。休日に妹と映画なんてさあ、シスコンにも程があるっての。 「ちなみにどんなヤツなんだ?」 「知りたいですか!?ミニシアター系でやってる『ロゼカラー』ってタイトルなんですけどぉ」 ロゼカラー…薔薇色?何か物凄く嫌な予感がするタイトルだぞ、おい。 「ロサード、それからロゼノアールって続く三部作の最初の作品で、男同士の熱い友情と愛情を濃厚に描いた傑作って大評判なんです! その見所はなんといってもリアルなカラミ―――」 「もういい!やっぱりか!」 瞳を輝かせてよどみなく熱弁を振るう瀬奈を、強引にストップさせる。 兄貴とそんなの見に行くなんて、こいつの頭の中どうなってんだよ!?いくらなんでも腐りすぎだぞ! いやいやそれだけじゃない。赤城のヤツも赤城のヤツだ。あいつ、まさか本当にホモなんじゃないだろうな? 「そうですか?残念…。なら、今度実際に見に行って下さいね?お兄ちゃんと。うへへ」 「行かねーよ!それに頬を赤くして言うんじゃんない!」 お前それ以上なんか言ったら、ストップしてたカウントダウンを再開させてやるかんね!? 「アハハ。冗談ですよ~」 「ぜってー嘘だろ」 「え?冗談が嫌なんですか?まさか本当にお兄ちゃんのこと…」 後5回な。それでお前エロイベント開始決定だから。 その後暫くの間、俺たちは取り留めのない会話を交わした。 といっても、喋っていたのは主に桐乃と瀬奈だったのだが、コミケの時も感じたけどこいつらはどうやら波長が合うらしい。 片や妹物のエロゲーマーで、片や筋金入りの腐女子という交じることの無い二人なはずなのに、こうやって意気投合するなんてな。 もちろん俺としたって、二人が仲良くなることに悪い気がするはずもない。 妹という共通点を持つ瀬奈なら、黒猫やあやせとは違った形の友情を桐乃と築けるはずだ。 だが、桐乃に腐った思考植え付けんのだけは許さんぞ。絶対だ。 「それじゃああたし行くね。時間に遅れちゃうし」 「うん。じゃあね、せなちー」 やがて会話が一段落を迎えた所で、手を振って瀬奈が去っていく。 その足取りはとても軽やかで、すぐに瀬奈の姿は人中へと消え、見えなくなった。 「それにしてもさ」 その直後、桐乃が呟いた。 「せなちーって凄いよね。最初はどうやって…その…大好きなお兄ちゃんに自分の趣味を打ち明けたのかな?」 「さあな。意外と最初から隠してなかったりしてな。てか、お前だっていきなり俺にエロゲーやらせたじゃんか。 似たようなもんだろ」 「う、うっさいなあ!あれはあれなんだって。それにあの時あれやらなかったら、あたし達こうならなかったじゃん。 むしろそこは感謝するところなんじゃないの?」 「う。ま、まあ、それはそうだけどよ」 桐乃が脇腹を肘でコツンと突っついてくる。その柔らかな衝撃を感じながら、顔が赤くなるのが分かった。 しまった。瀬奈の登場でうっかり忘れていたが、俺たちはそうなっていたんだっけ。 赤城の奴をシスコンにも程があるなんて言っちまったが、天元突破してるのは俺の方だったか。 「きょーすけってばなに赤くなってんのぉ~?」 そんな俺の顔を、小悪魔チックにニヤニヤと笑顔で桐乃が覗き込む。 くそ、こいつ分かってやってるな。可愛いが腹が立つ。だが可愛い。 「ぷくく。照れてるんだぁ」 「ち、ちげーよ。お前が必要以上にくっついて来るから熱いんだよ」 「ハイハイ。言い訳乙ぅww」 うん。やっぱ、マジでムカツクわ。 「ところで、今日この後どうすんのかって予定決めてあんの?」 と、ひとしきり俺をからかって満足したのか、ガラリと口調を変えて桐乃が聞いてきた。 おっと、そういやこれもまだだったな。 からかわれた事もあり、俺は心持ち胸を張ってそれに答える。 「おう。一応な」 「ふーん。やるじゃん」 意外といった感じで、それでも満更でもなさそうな様子だ。 まーな。前回があんなんだったし、今回はちっとばかし気合い入れたんだよ。 ほんとグーグル先生には感謝してるぜ。 「それじゃあまずは―――」 おっと、あんたらにゃ教えねーよ。 悪いね。 * *
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マサ ◆masaPanJmw マサパンツ ◆masaPanJmw 620 マサパンツ ◆masaPanJmw 2008/03/13(木) 00 29 17 ID BqarUi3G0 くぱぁ 673 マサパンツ ◆masaPanJmw 2008/03/13(木) 00 38 57 ID BqarUi3G0 割れだから潰せ 86 . シスカ (19 / 19) [Game - 聖なるかな 沙月先輩ルート ハードモード 5章~] 「既読はスキップだお。」 732 マサパンツ ◆masaPanJmw 2008/03/13(木) 00 47 40 ID BqarUi3G0 利裕雅如く